養生訓 / 巻第四・飲食下
一いにしへ、もろこしに食醫の官あり。食養によつて百病を治すと云ふ。今とても食養なくんばあるべからず。殊に老人は脾胃よわし。尤食養宜しかるべし。藥を用ふるは、やむ事を得ざる時の事なり。一同食の禁忌多し。其要なるをこゝに記す。○猪肉に、生薑、蕎麥、胡荽、炒豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈鶴鶉を忌む。○牛肉に、黍韭生薑、栗子を忌む。○兎肉に、生薑橘皮、芥子、鷄鹿獺○鹿に、生菜、鷄雉、蝦を忌む。○鷄肉と鷄子とに、芥子、蒜生葱、糯米、李子、魚汁、鯉魚、兎、獺鼈雉を忌む。○雉肉に、蕎麥、木耳、胡桃、鰤魚、鮎魚をいむ。○野鴨に、胡桃、木耳をいむ。○鴨子に、李子、鼈肉。○雀肉に、李子、醬○鰤魚に、芥子、蒜飴鹿、芹、雞雉○魚酢に、麥醬蒜綠豆。
新字:一いにしへ、もろこしに食医の官あり。食養によつて百病を治すと云ふ。今とても食養なくんばあるべからず。殊に老人は脾胃よわし。尤食養宜しかるべし。薬を用ふるは、やむ事を得ざる時の事なり。一同食の禁忌多し。其要なるをこゝに記す。○猪肉に、生薑、蕎麦、胡荽、炒豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈鶴鶉を忌む。○牛肉に、黍韭生薑、栗子を忌む。○兎肉に、生薑橘皮、芥子、鶏鹿獺○鹿に、生菜、鶏雉、蝦を忌む。○鶏肉と鶏子とに、芥子、蒜生葱、糯米、李子、魚汁、鯉魚、兎、獺鼈雉を忌む。○雉肉に、蕎麦、木耳、胡桃、鰤魚、鮎魚をいむ。○野鴨に、胡桃、木耳をいむ。○鴨子に、李子、鼈肉。○雀肉に、李子、醬○鰤魚に、芥子、蒜飴鹿、芹、鶏雉○魚酢に、麦醬蒜緑豆。
書き下し
一いにしへ、もろこしに食医の官あり。食養によつて百病を治すと云ふ。今とても食養なくんばあるべからず。殊に老人は脾胃よわし。尤食養宜しかるべし。薬を用ふるは、やむ事を得ざる時の事なり。一同食の禁忌多し。其要なるをここに記す。○猪肉に、生薑、蕎麦、胡荽、炒豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈鶴鶉を忌む。○牛肉に、黍韭生薑、栗子を忌む。○兎肉に、生薑橘皮、芥子、鶏鹿獺○鹿に、生菜、鶏雉、蝦を忌む。○鶏肉と鶏子とに、芥子、蒜生葱、糯米、李子、魚汁、鯉魚、兎、獺鼈雉を忌む。○雉肉に、蕎麦、木耳、胡桃、鰤魚、鮎魚をいむ。○野鴨に、胡桃、木耳をいむ。○鴨子に、李子、鼈肉。○雀肉に、李子、醬○鰤魚に、芥子、蒜飴鹿、芹、鶏雉○魚酢に、麦醬蒜緑豆。
現代語訳
昔、中国には食医という官職がありました。食事による養生で多くの病を治したといいます。今でも食養生はなくてはならないものです。とくに老人は脾胃が弱いので、食養生がいちばんよいでしょう。薬を用いるのは、やむを得ないときのことです。同時に食べてはならない食べ合わせは多くあります。その主なものをここに記します。猪肉には、生姜、蕎麦、胡荽(コエンドロ)、炒り豆、梅、牛肉、鹿肉、鼈(すっぽん)、鶴、鶉を忌みます。牛肉には、黍、韮、生姜、栗を忌みます。兎の肉には、生姜、橘の皮、芥子、鶏、鹿、獺を忌みます。鹿には、生野菜、鶏、雉、海老を忌みます。鶏肉と鶏卵には、芥子、蒜、生葱、糯米、李、魚の汁、鯉、兎、獺、鼈、雉を忌みます。雉の肉には、蕎麦、木耳、胡桃、鰤、鮎を忌みます。野鴨には、胡桃、木耳を忌みます。鴨の卵には、李、鼈の肉を忌みます。雀の肉には、李、醤を忌みます。鰤には、芥子、蒜、飴、鹿、芹、鶏、雉を忌みます。魚の鮨には、麦醤、蒜、緑豆を忌みます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第四・飲食下○鼈肉に、莧菜、芥菜、桃子、鴨肉。○蟹に、柿橘棗○李子に蜜を忌む。○橙、橘に獺肉。○棗に葱○枇杷に熱麪○楊梅に生葱。○銀杏に鰻鱺○諸瓜に油餅。○黍、米に蜜。○緑豆に榧子を食し合はすれば殺人。○莧に蕨。○乾筍に砂糖。○紫蘇、茎葉と、鯉魚。○草石蠶と諸魚。○魚鱠と、瓜冷水。○菜瓜と魚膾と一にすべからず。○鮮肉に有髪害人。○麦醬、蜂蜜と同食すべからず。○越瓜と鮮肉。○酒後茶を飲むべからず、腎をやぶる。○酒後、芥子及辛き物を食へば、筋骨を緩くす。○茶と榧と同時に食へば身重し。○和俗の云ふ蕨粉を餻とし、緑豆を糝にして食へば殺人。又曰、鱸魚を木綿子の火にてやきて食すれば殺人。又曰、胡椒と沙菰米と同食すれば殺人。又胡椒と桃、李楊梅、同食すべからず。又曰、松蕈を米を貯ふる器中に入れおけるを食ふべからず。又曰、南瓜を魚膾に合はせ食すべからず。
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『養生訓』巻第四・飲食下一凡の人、食ふべからざる物。生冷の物、堅硬の物、未熟物、ねばき物、ふるくして気味の変じたる物、製法心に叶はざる物、塩からき物、酢の過ぎたる物、飪を失へる物、臭悪しき物、色悪しき物、味変じたる物、魚餒れ肉敗れたる、豆腐の日を歴たると味あしきと、飪を失へると冷えたると、索麪に油あると、諸品煮て未熟と、有灰酒、酸味ある酒、いまだ時ならずして熟せざる物、すでに時過ぎたる物、食ふべからず。夏月、雉食ふべからず。魚鳥の皮こはき物、脂多き物、甚なまぐさき物、諸魚二目同じからざる物、腹下に丹の字ある物、諸鳥みづから死して足伸びざる物、諸獣毒箭にあたりたる物、諸鳥毒をくらつて死したる物、肉の脯、屋漏水にぬれたる物、米器の内に入れ置きたる物、肉汁を器に入れ置きて気をとぢたる物、皆毒あり。肉脯、幷に塩に漬けたる肉、夏を歴て臭味あしき、皆食ふべからず。
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『養生訓』巻第四・飲食下一黄耆を服する人は、酒を多くのむべからず。甘草を服する人は、菘菜を食ふべからず。地黄を服するには、蘿蔔、蒜葱の三白を忌む。菘は忌まず。荊芥を服するには生魚をいむ。土茯苓を服するには茶をいむ。凡如此類はかたく忌むべし。薬と食物とのおそれ忌むは、自然の理なり。番木鼈の鳥を殺し、磁石の針を吸ふの類も、皆天然の性なり。此の理うたがふべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一清き物、かうばしき物、もろく和かなる物、味かろき物、性よき物、此五の物をこのんで食ふべし。益ありて損なし。是に反する物食ふべからず。此事もろこしの書にも見えたり。一衰病虚弱の人は、つねに魚鳥の肉を味よくして、少しづつ食ふべし。参芪の補にまされり。性よき生魚を烹炙よくすべし。塩つけて一両日過ぎたる、尤よし。久しければ味よからず、且滞りやすし。生魚の肉、豉につけたるを炙り煮て食ふもよし。夏月は久しくたもたず。
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『養生訓』巻第七・用薬一脾胃を養ふには、只穀肉を食するに相宜し。薬は、皆気の偏なり。参耆朮甘は、上薬にて毒なしといへども、病に応ぜざれば、胃の気を滞らしめ、かへつて、病を生じ食を妨けて、毒となる。いはんや、攻撃のあらくつよき薬は、病に応ぜざれば、大に元気をへらす。此故に、病なき時は、只穀肉を以てやしなふべし。穀肉の、脾胃をやしなふによろしき事、参耆の補にまされり。故に、古人の言に、薬補は食補にしかずといへり。老人は、殊に食補すべし。薬補は、やむ事を得ざる時用ふべし。
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『養生訓』巻第四・飲食下一炙肉すでに炙りて、又熱湯に少しひたし、水毒を去りて食ふべし。不然ば津液をかわかす。又能く喉痹を発す。一茄子、本草等の書に、性不好と云ふ。生なるは毒あり、食ふべからず。煮たるも、瘧痢傷寒などには誠に忌むべし。他病には、皮を去り、切りて米泔に浸し、一夜か半日を歴て、やはらかに煮て食す、害なし。葛粉、水に溲ねて、切りて線条とし、水にて煮又豉汁に堅魚の末を加へ、再び煮て食す。瀉を止め胃を補ふ。保養に益あり。一胃虚弱の人は、蘿蔔、胡蘿蔔、芋、薯蕷、牛蒡など、うすく切りてよく煮たる、食ふべし。大にあつく切りたると、煮ていまだ熟せざると、皆脾胃をやぶる。一度うす豆豉か薄じやうゆにて煮、其汁にひたし置き、半日か一夜か間置きて、再び前の汁にて煮れば、大に切りたるも害なし、味よし。鶏肉、野猪肉なども如此すべし。
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