養生訓 / 巻第三・飲食上
一人身は元氣を本とす。穀の養によりて、元氣生々してやまず。穀肉を以て元氣を助くべし。穀肉を過して元氣をそこなふべからず。元氣穀肉に勝てば、壽し。穀肉元氣に勝てば、夭し。又古人の言に、穀は肉にかつべし、肉は穀に勝たしむべからず、といへり。
新字:一人身は元気を本とす。穀の養によりて、元気生々してやまず。穀肉を以て元気を助くべし。穀肉を過して元気をそこなふべからず。元気穀肉に勝てば、寿し。穀肉元気に勝てば、夭し。又古人の言に、穀は肉にかつべし、肉は穀に勝たしむべからず、といへり。
書き下し
一人身は元気を本とす。穀の養によりて、元気生々してやまず。穀肉を以て元気を助くべし。穀肉を過して元気をそこなふべからず。元気穀肉に勝てば、寿し。穀肉元気に勝てば、夭し。又古人の言に、穀は肉にかつべし、肉は穀に勝たしむべからず、といへり。
現代語訳
人の身は元気を根本とします。穀物の養いによって、元気が生まれ続けて止みません。穀物や肉で元気を助けなさい。穀物や肉を過ごして元気を損なってはいけません。元気が穀物や肉に勝てば長生きします。穀物や肉が元気に勝てば若死にします。また昔の人の言葉に「穀物は肉に勝つべきで、肉を穀物に勝たせてはならない」と言っています。
解説
食べ物と元気の関係を「勝つ・負ける」で表した条です。食べた物を元気が十分にこなしきれば長生きし、食べた量が元気を上回れば若死にするという考えで、食べる量の多さがかえって体の力を奪うことを示しています。さらに穀と肉の関係でも、穀を主とし肉を従とせよと説きます。これは前の条で紹介した論語の「肉は多しと雖も食の気に勝たしめず」とも響き合います。自分の消化する力に見合った量を食べるという考えは、年齢や体調に合わせた食事の基本です。
この章句が説くこと
元気穀物肉長寿養生
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一人の元気は、もと是天地の万物を生ずる気なり。是人身の根本なり。人此の気にあらざれば生ぜず。生じて後は、飲食衣服居処の外物の助によりて、元気養はれて命をたもつ。飲食衣服居処の類も、亦天地の生ずる所なり。生るるも養はるるも、皆天地父母の恩なり。外物を用ひて、元気の養とする所の飲食などをかろく用ひて過さざれば、生れつきたる内の元気を養ひて、いのちながくして天年をたもつ。もし外物の養をおもくし過せば、内の元気外の養にまけて病となる。病おもくして元気尽くれば死す。たとへば草木に水と肥との養を過せば、かじけて枯るるがごとし。故に、人ただ心の内の楽を求めて、飲食などの外の養をかろくすべし。外の養おもければ内の元気損ず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一飲食の内、飯は飽かざれば飢を助けず。あつものは飯を和せんためなり。肉はあかずしても不足なし。少し食つて食をすすめ、気を養ふべし。菜は穀肉の足らざるを助けて、消化しやすし。皆其食すべき理あり。然れ共多かるべからず。
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『養生訓』巻第三・飲食上一人の身は、元気を天地にうけて生ずれども、飲食の養なければ、元気うゑて命をたもちがたし。元気は生命の本なり。飲食は生命の養なり。此の故に、飲食の養は人生日用専一の補にて、半日も欠きがたし。然れども、飲食は人の大欲にして、口腹の好む所なり。其好めるにまかせて恣にすれば、節に過ぎて、必ず脾胃をやぶり、諸病を生じ、命を失ふ。五臓の初めて生ずるは、腎を以て本とす。生じて後は、脾胃を以て五臓の本とす。飲食すれば、脾胃まづ是をうけて消化し、其精液を臓腑におくる。臓腑の脾胃の養をうくる事、草木の土気によりて生長するが如し。是を以て、養生の道は先脾胃を調ふるを要とす。脾胃を調ふるは人身第一の保養なり。古人も、飲食を節にして、其身を養ふといへり。
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『養生訓』巻第二・総論下一飲食は身を養ひ、ねぶり臥すは気を養ふ。しかれども、飲食節に過ぐれば脾胃をそこなふ。ねぶり臥す事時ならざれば元気をそこなふ。此二は、身を養はんとして、かへつて身をそこなふ。よく生を養ふ人は、つとに起きよはに寝ねて、昼いねず、常にわざをつとめて怠らず、ねぶり臥す事をすくなくして神気をいさぎよくし、飲食をすくなくして腹中を清虚にす。かくのごとくなれば、元気よくめぐり、ふさがらずして病生ぜず。発生の気其養を得て、血気おのづからさかんにして病なし。是寝食の二の節に当れるは、また養生の要なり。
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『養生訓』巻第三・飲食上一湯は熱きをさまして、よき比の時飲むはよし。半沸の湯を飲めば腹はる。一食すくなければ、脾胃の中に空処ありて、元気めぐりやすく、食消化しやすくして、飲食する物、皆身の養となる。是を以て、病すくなくして身つよくなる。もし食多くして、腹中にみつれば、元気のめぐるべき道をふさぎ、すき間なくして、食消せず。是を以て、飲みくふ物、身の養とならず。滞りて元気の道をふさぎ、めぐらずして病となる。甚しければ、もだえて死す。是食過ぎて腹にみち、気ふさがりてめぐらざる故なり。食後に病おこり、或は頓死するは、此故なり。凡大酒大食する人は、必ず短命なり。早く止むべし。かへすがへす、老人は膓胃よわき故に、飲食にやぶれやすし、多く飲食すべからず。おそるべし。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先心気を養ふべし。心を和かにし、気を平かにし、いかりと慾とをおさへ、うれひ思ひをすくなくし、心をくるしめず、気をそこなはず、是心気を養ふ要道なり。又臥す事を好むべからず。久しく睡り臥せば気滞りてめぐらず。飲食いまだ消化せざるに早く臥し睡れば、食気ふさがりて甚元気をそこなふ。いましむべし。酒は微酔に飲み、半酣をかぎりとすべし。食は半飽に食ひて、十分に満つべからず。酒食ともに限を定めて、節にこゆべからず。又わかき時より、色慾をつつしみ、精気を惜むべし。精気を多くつひやせば、下部の気よわくなり、元気の根本たえて、必ず命短し。もし飲食色慾の慎なくば、日々補薬を服し、朝夕食補をなすとも、益なかるべし。
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