養生訓 / 巻第二・総論下
一氣を養ふに、嗇の字を用ふべし。老子此意をいへり。嗇はをしむなり。元氣ををしみて費さゞるなり。たとへば吝嗇なる人の、財多く餘あれども、をしみて人にあたへざるが如くなるべし。氣ををしめば、元氣へらずして長命なり。
新字:一気を養ふに、嗇の字を用ふべし。老子此意をいへり。嗇はをしむなり。元気ををしみて費さゞるなり。たとへば吝嗇なる人の、財多く余あれども、をしみて人にあたへざるが如くなるべし。気ををしめば、元気へらずして長命なり。
書き下し
一気を養ふに、嗇の字を用ふべし。老子此意をいへり。嗇はをしむなり。元気ををしみて費さざるなり。たとへば吝嗇なる人の、財多く余あれども、をしみて人にあたへざるが如くなるべし。気ををしめば、元気へらずして長命なり。
現代語訳
気を養うには、嗇(しょく)の字を用いなさい。老子がこの意味を言っています。嗇とは惜しむことです。元気を惜しんで費やさないことです。たとえば、けちな人が財産が多く余っていても、惜しんで人に与えないように、元気を扱うべきです。気を惜しめば元気が減らず長命になります。
解説
『老子』第五十九章の「人を治め天に事ふるは嗇に若くは莫し」を踏まえ、元気を惜しむ「嗇」の一字を養生の要としています。財は惜しまず人に施せと説く益軒が、元気だけはけちな人のように惜しめと言うのが面白いところです。元気は一度使い果たすと取り戻しにくい元手だからでしょう。気力も体力も、使うときは使い、無駄に浪費しない。仕事で燃え尽きないために、自分のエネルギーを大事に配分する考え方として今も参考になります。
この章句が説くこと
元気嗇老子長命気
関連する章句
-
『養生訓』巻第二・総論下一万の事、皆わが力をはかるべし。力の及ばざるを、強ひて其わざをなせば、気へりて病を生ず。分外をつとむべからず。一わかき時より老にいたるまで、元気を惜むべし。年わかく康健なる時より、はやく養ふべし。つよきを頼みて、元気を用ひ過すべからず。わかき時元気ををしまずして、老いて衰へ、身よわくなりて、初て保養するは、たとへば財多く富める時、おごりて財をつひやし、貧窮になりて財乏しき故、初て倹約を行ふが如し。行はざるにまされどおそくして其しるし少し。
-
『養生訓』巻第二・総論下一人毎日昼夜の間、元気を養ふ事と、元気をそこなふ事との二の多少をくらべ見るべし。衆人は、一日の内、気を養ふ事は常にすくなく、気をそこなふ事は常に多し。養生の道は、元気を養ふ事のみにて、元気をそこなふ事なかるべし。もし養ふ事はすくなく、そこなふ事多く、日々つもりて久しければ、元気へりて病生じ死にいたる。この故に、衆人は病多くして短命なり。かぎりある元気をもちて、かぎりなき慾をほしいままにするは危し。
-
『養生訓』巻第二・総論下かやうに事ごとに少くすれば、元気へらず、脾腎損ぜず。是寿をたもつの道なり。十二にかぎらず、何事も身のわざと欲とを少くすべし。一時に気を多く用ひ過し、心を多く用ひ過せば、元気へり、病となりて、命みじかし。物ごとに数多く、はば広く用ふべからず。数すくなく、はばせばきがよし。孫思邈が千金方にも、養生の十二少をいへり。其意同じ。目録は是と同じからず。右にいへる十二少は、今の時宜にかなへるなり。
-
『養生訓』巻第二・総論下一心はつねに従容と静かにせはしからず、和平なるべし。言語は殊に静かにしてすくなくし、無用の事いふべからず。是尤気を養ふ良法なり。一人の身は、気を以て生の源、命の主とす。故に養生をよくする人は、常に元気を惜みてへらさず、静にしては元気をたもち、動きては元気をめぐらす。たもつとめぐらすと二の者そなはらざれば、気を養ひがたし。動静其時を失はず、是気を養ふの道なり。一もし大風雨と雷甚しくば、天の威をおそれて、夜といへども必ず起き、衣服をあらためて坐すべし、臥すべからず。
-
『養生訓』巻第二・総論下一養生の道は、たのむを戒む。わが身のつよきをたのみ、若きをたのみ、病の少しいゆるをたのむ、是皆わざはひの本なり。刃の鋭きをたのんで、かたき物を切れば刃折る。気のつよきをたのんで、みだりに気をつかへば気へる。脾腎のつよきをたのんで、飲食色慾を過せば病となる。
-
『慎思録』巻之六人身の生理は、気を以て主と為す。気は是れ生命の本なり。故に心を養ふ者は、欲を寡くして其の気を暴すること無かるべし。生を養ふ者は、気を愛して耗すること無かるべし。静にしては以て其の気を保ち、動にしては以て其の気を行らす。動静其の時を失はざる、是れ気を養ひて以て生を養ふの道なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る