養生訓 / 巻第一・総論上
一いにしへの人三慾を忍ぶ事をいへり。三慾とは、飮食の欲、色の欲、睡の欲なり。飮食を節にし、色慾をつゝしみ、睡をすくなくするは、皆慾をこらふるなり。飮食色慾をつゝしむ事は人知れり。只睡の慾をこらへて、寢ぬる事をすくなくするが、養生の道なる事は、人しらず。ねぶりをすくなくすれば無病になるは、元氣めぐりやすきが故なり。ねぶり多ければ元氣めぐらずして病となる。夜ふけて臥しねぶるはよし、晝いぬるは尤害あり。宵に早く寢ぬれば、食氣とゞこほりて害あり。ことに朝夕飮食のいまだ消化せず、其氣いまだめぐらざるに早く寢ぬれば、食慾とゞこほりて元氣をそこなふ。古人睡慾を以て、飮食色慾にならべて三慾とする事、むべなるかな。
新字:一いにしへの人三慾を忍ぶ事をいへり。三慾とは、飲食の欲、色の欲、睡の欲なり。飲食を節にし、色慾をつゝしみ、睡をすくなくするは、皆慾をこらふるなり。飲食色慾をつゝしむ事は人知れり。只睡の慾をこらへて、寝ぬる事をすくなくするが、養生の道なる事は、人しらず。ねぶりをすくなくすれば無病になるは、元気めぐりやすきが故なり。ねぶり多ければ元気めぐらずして病となる。夜ふけて臥しねぶるはよし、昼いぬるは尤害あり。宵に早く寝ぬれば、食気とゞこほりて害あり。ことに朝夕飲食のいまだ消化せず、其気いまだめぐらざるに早く寝ぬれば、食慾とゞこほりて元気をそこなふ。古人睡慾を以て、飲食色慾にならべて三慾とする事、むべなるかな。
書き下し
一いにしへの人三慾を忍ぶ事をいへり。三慾とは、飲食の欲、色の欲、睡の欲なり。飲食を節にし、色慾をつつしみ、睡をすくなくするは、皆慾をこらふるなり。飲食色慾をつつしむ事は人知れり。只睡の慾をこらへて、寝ぬる事をすくなくするが、養生の道なる事は、人しらず。ねぶりをすくなくすれば無病になるは、元気めぐりやすきが故なり。ねぶり多ければ元気めぐらずして病となる。夜ふけて臥しねぶるはよし、昼いぬるは尤害あり。宵に早く寝ぬれば、食気とどこほりて害あり。ことに朝夕飲食のいまだ消化せず、其気いまだめぐらざるに早く寝ぬれば、食慾とどこほりて元気をそこなふ。古人睡慾を以て、飲食色慾にならべて三慾とする事、むべなるかな。
現代語訳
昔の人は三欲を忍ぶことを言いました。三欲とは、飲食の欲、色の欲、眠りの欲です。飲食を節度あるものにし、色欲を慎み、眠りを少なくするのは、みな欲をこらえることです。飲食や色欲を慎むことは人も知っています。ただ眠りの欲をこらえて寝ることを少なくするのが養生の道であることは、人は知りません。眠りを少なくすれば無病になるのは、元気がめぐりやすいからです。眠りが多ければ元気がめぐらずに病となります。夜が更けてから臥して眠るのはよいのですが、昼寝はもっとも害があります。宵に早く寝ると、食べた物の気が滞って害があります。とくに朝夕の飲食がまだこなれず、その気がまだめぐらないうちに早く寝ると、食べた物の気が滞って元気を損ないます。昔の人が眠りの欲を飲食・色欲と並べて三欲としたのは、もっともなことです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『養生訓』巻第一・総論上一凡養生の道は、内慾をこらふるを以て本とす。本をつとむれば、元気つよくして外邪おかさず。内慾を慎まずして、元気よわければ、外邪にやぶられ易くして、大病となりて命をたもたず。内慾をこらふるに、其の大なる条目は、飲食をよきほどにして過さず、脾胃をやぶり病を発する物をくらはず。色慾をつつしみて精気を惜み、時ならずして臥さず。久しく睡る事をいましめ、久しく安坐せず。時々身をうごかして、気をめぐらすべし。殊に食後には、必ず数百歩歩行すべし。若久しく安坐し、又食後に穏坐し、ひる寝ね、食気いまだ消化せざるに早く臥しねぶれば、滞りて病を生じ、久しきをつめば、元気発生せずしてよわくなる。常に元気をへらす事を惜みて、言語をすくなくし、七情をよきほどにし、七情の内にて、取わき、いかり、かなしみ、うれひ、思ひをすくなくすべし。
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『養生訓』巻第一・総論上おこたりてねぶりを好めば、くせになりて睡多くしてこらへがたし。ねぶりのこらへがたき事も、また飲食色慾に同じ。初は強くこらへざれば防ぎがたし。つとめて睡をすくなくし、ならひて慣れぬれば、おのづから睡すくなし。ならひて睡をすくなくすべし。言語をつつしみて、無用の言をはぶき、言をすくなくすべし。多く言語すれば、必ず気へりて、又気のぼる。甚だ元気をそこなふ。言語をつつしむも、亦徳をやしなひ、身をやしなふ道なり。
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『初学訓』巻之五一養生の道も、亦よく謹みて、慾を堪ふるにあり。養生の要は、飲食色慾をこらへて過さず、心を和け気を平らかにし、かなしみ、いかり、うれへ、思ひを過さず、又風寒暑湿の外邪を防ぐべし。飲食色慾は内慾なり。風寒暑湿は外邪なり。つよき人も、内慾を過し、外邪に傷らるれば、病に冒されて、長生を得がたし。又、生れつきよわけれど、よく保養すれば、天年をたもちて長寿なり。わかき時より、早く養生をつとむべし。わかく血気さかんなれば、飲食色慾恣なり。いましむべし。飲食色慾を恣にすれば、元気つきて短命なり。中年以後は、色慾より、飲食の慾尤こらへ難し。内慾にやぶられて元気減れば、外邪も侵しやすく、病起りやすし。人の天年を保たずして、早く死ぬるは、多くは、飲食色慾の二に傷らるればなり。
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『養生訓』巻第二・総論下一飲食は身を養ひ、ねぶり臥すは気を養ふ。しかれども、飲食節に過ぐれば脾胃をそこなふ。ねぶり臥す事時ならざれば元気をそこなふ。此二は、身を養はんとして、かへつて身をそこなふ。よく生を養ふ人は、つとに起きよはに寝ねて、昼いねず、常にわざをつとめて怠らず、ねぶり臥す事をすくなくして神気をいさぎよくし、飲食をすくなくして腹中を清虚にす。かくのごとくなれば、元気よくめぐり、ふさがらずして病生ぜず。発生の気其養を得て、血気おのづからさかんにして病なし。是寝食の二の節に当れるは、また養生の要なり。
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『養生訓』巻第一・総論上一養生の術は、先心気を養ふべし。心を和かにし、気を平かにし、いかりと慾とをおさへ、うれひ思ひをすくなくし、心をくるしめず、気をそこなはず、是心気を養ふ要道なり。又臥す事を好むべからず。久しく睡り臥せば気滞りてめぐらず。飲食いまだ消化せざるに早く臥し睡れば、食気ふさがりて甚元気をそこなふ。いましむべし。酒は微酔に飲み、半酣をかぎりとすべし。食は半飽に食ひて、十分に満つべからず。酒食ともに限を定めて、節にこゆべからず。又わかき時より、色慾をつつしみ、精気を惜むべし。精気を多くつひやせば、下部の気よわくなり、元気の根本たえて、必ず命短し。もし飲食色慾の慎なくば、日々補薬を服し、朝夕食補をなすとも、益なかるべし。
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『養生訓』巻第二・総論下一千金方に曰く、養生の道、久しく行き、久しく坐し、久しく臥し、久しく視ることなかれ。一酒食の気いまだ消化せざる内に、臥して睡れば、必ず酒食とどこほり、気ふさがりて病となる。いましむべし。昼は必ず臥すべからず。大に元気を損ふ。もし大につかれたらば、うしろに恁りかかりてねぶるべし。もし臥さば、かたはらに人をおきて少しねぶるべし。久しくねぶらば、人に呼びさまさしむべし。
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