夜船閑話 / 本文
蓋し繫緣諦眞の二止あり、諦眞は實相の圓觀、繫緣は心氣を臍輪氣海丹田の間に收め守るを以て第一とす。行者是を用るに大に利あり。古へ永平の開祖師、大宋に入て如淨を天童に拜す。師一日密室に入て益を請ふ。淨曰く、元子坐禪の時、心を左の掌の上におくべしと。是卽ち顗師の謂ゆる繋緣止の大略なり。顗師初め此の繋緣内觀の秘訣を敎へて、其家兄鎭愼が重痾を萬死の中に助け救ひ玉ふことは、精しくは小止觀の中に說けり。
新字:蓋し繋縁諦真の二止あり、諦真は実相の円観、繋縁は心気を臍輪気海丹田の間に収め守るを以て第一とす。行者是を用るに大に利あり。古へ永平の開祖師、大宋に入て如浄を天童に拝す。師一日密室に入て益を請ふ。浄曰く、元子坐禅の時、心を左の掌の上におくべしと。是即ち顗師の謂ゆる繋縁止の大略なり。顗師初め此の繋縁内観の秘訣を教へて、其家兄鎮慎が重痾を万死の中に助け救ひ玉ふことは、精しくは小止観の中に説けり。
書き下し
蓋し繋縁諦真の二止あり、諦真は実相の円観、繋縁は心気を臍輪気海丹田の間に収め守るを以て第一とす。行者是を用るに大に利あり。古へ永平の開祖師、大宋に入て如浄を天童に拝す。師一日密室に入て益を請ふ。浄曰く、元子坐禅の時、心を左の掌の上におくべしと。是即ち顗師の謂ゆる繋縁止の大略なり。顗師初め此の繋縁内観の秘訣を教へて、其家兄鎮慎が重痾を万死の中に助け救ひ玉ふことは、精しくは小止観の中に説けり。
現代語訳
思うに、繋縁止と諦真止の二つの止がある。諦真止は真実のありさまを円かに観ること、繋縁止は心の気を臍輪、気海、丹田の間に収めて守ることを第一とする。修行者がこれを用いれば、大いに利益がある。昔、永平寺の開祖である道元禅師が、大宋国に渡って天童山で如浄禅師に礼拝した。道元はある日、密室に入って教えを請うた。如浄は言った。元子よ、坐禅のときは心を左の掌の上に置くがよい、と。これがすなわち天台智顗大師のいう繋縁止のあらましである。智顗大師が初めてこの繋縁の内観の秘訣を教えて、兄の陳鍼の重病を死の淵から救い助けられたことは、詳しくは『小止観』の中に説かれている。
解説
この章句が説くこと
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『夜船閑話』本文公若し心炎意火を収めて丹田及び足心の間におかば、胸膈自然に清涼にして一点の計較思想なく、一滴の識浪情波なけん。是真観清浄観なり。云ふことなかれ、しばらく禅観を抛下せんと。仏の言はく、心を足心にをさめて、能く百一の病を治すと。阿含に酥を用るの法あり、心の労疲を救ふこと尤妙なり。天台の摩訶止観に病因を論ずること甚だ尽せり。治法を説くことも亦甚だ精密なり。十二種の息あり、よく衆病を治す。臍輪を縁して豆子を見るの法あり。其大意、心火を降下して丹田及び足心に収るを以て至要とす。但病を治するのみにあらず、大に禅観を助く。
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『夜船閑話』本文公先に心火逆上して此重痾を発す。若し心を降下せずんば、縦ひ三界の秘密を行じ尽したりとも起つこと得じ。且つ又我が形模、道家者流に類するを以て、大に釈に異なる者とするか、是禅なり。佗日打発せば、大に笑つべきの事有らむ。夫観は無観を以て正観とす。多観の者を邪観とす。向きに公多観を以て此重症を見る。今是を救ふに無観を以てす、また可ならずや。
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『夜船閑話』本文時に幽恬如として予が手を捉らへて、精く五内を窺ひ九候を察す。爪甲長きこと半寸、惨乎として顙を攅めてつげて云く、已哉、観理度に過ぎ、進修節を失して、終に此の重症を発す、実に医治し難きものは、公の禅病なり。若し鍼灸薬の三つの物を恃んで而して後に是を救はむと欲せば、扁倉力をつくし華陀顙を攅むるも奇功を見ること能はじ、公今既に観理の為めに破らる、勤めて内観の功を積まずんば、終に起つこと能はじ。是彼の起倒は必ず地に依るの謂なり。
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『夜船閑話』序此において真正参玄の上士両三輩を得て、内観と参禅と共に合せ並らべ貯へて、且つ耕し且つ戦ふ者蓋し茲に三十年。年々一員を添へ二肩を增し得て、今既に二百衆に近かし。其中間方来の衲子、労屈疲倦の族、或は心火逆上し正に発狂せんとする底を憐み、密かに此内観の至要を伝授し、立所に快癒せしめ、転々悟れば転々進ましむ。
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『夜船閑話』序是を憐み是を愁て、師不予の色有る者連日、乍ち忍俊不禁にして雲頭を按下し、老婆の臭乳を絞つて是に授るに内観の秘訣を以てす。乃ち云く、若是参禅弁道の上士心火逆上し、身心労疲し、五内調和せざることあらんに、鍼灸薬の三つを以て是を治せんと欲せば、縦ひ華陀扁倉といへども、輙く救ひ得ること能はじ。我に仙人還丹の秘訣あり、儞が輩試に是を修せよ、奇功を見ること、雲霧を披いて皎日を見るが如けん。
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『夜船閑話』本文蓋し五無漏の法あり。儞の六欲を去け、五官各々其職を忘るゝ則は、混然たる本源の真気彷彿として目前に充つ。是彼の大白道人の謂ゆる我が天を以て事る所の天に合する者なり。孟軻氏の謂ゆる浩然の気是をひきいて臍輪気海丹田の間に蔵めて歳月を重ねて、是を守一にし去り、是を養て無適にし去て、一朝乍ち丹竈を掀翻する則は、内外中間、八紘四維、総に是一枚の大還丹。此時に当て初て自己即ち是天地に先つて生せず、虚空に後れて死せざる底の真箇長生久視の大神仙なることを覚得せん。