夜船閑話 / 本文
五陰下に居し、一陽上に止まる、是を山地剝と云ふ。九月の候なり。天是を得る則は、林苑色を失し百卉荒落す。是衆人の息は、是を息するに喉を以てするの象、人是を得る則は、形容枯槁し、齒牙搖ぎ落つ。所以に延壽書に云く、六陽共に盡く則は、是全陰の人死し易し。須らく知るべし、元氣をして常に下に充しむ、是生を養ふの樞要なることを。
新字:五陰下に居し、一陽上に止まる、是を山地剝と云ふ。九月の候なり。天是を得る則は、林苑色を失し百卉荒落す。是衆人の息は、是を息するに喉を以てするの象、人是を得る則は、形容枯槁し、歯牙揺ぎ落つ。所以に延寿書に云く、六陽共に尽く則は、是全陰の人死し易し。須らく知るべし、元気をして常に下に充しむ、是生を養ふの枢要なることを。
書き下し
五陰下に居し、一陽上に止まる、是を山地剝と云ふ。九月の候なり。天是を得る則は、林苑色を失し百卉荒落す。是衆人の息は、是を息するに喉を以てするの象、人是を得る則は、形容枯槁し、歯牙揺ぎ落つ。所以に延寿書に云く、六陽共に尽く則は、是全陰の人死し易し。須らく知るべし、元気をして常に下に充しむ、是生を養ふの枢要なることを。
現代語訳
五つの陰が下にあり、一つの陽が上にとどまる、これを山地剝という。九月の季節である。天がこれを得れば、林や庭の木々は色を失い、あらゆる草木は荒れ落ちる。これは衆人の呼吸が喉で息をする姿であり、人がこれを得れば、姿は痩せ衰え、歯はぐらぐらと抜け落ちる。だから延寿書には、六つの陽がすべて尽きれば、全くの陰となった人は死にやすい、とある。知っておかなければならない。元気を常に下に満たしておくこと、それが生命を養う要であることを。
解説
前の段の地天泰と対照して、陽の気が上に取り残された山地剝の状態を描く。剝ははがれ落ちるという意味で、晩秋に木の葉が散るように、人も衰えていく。呼吸が喉元にとどまり、気が上に浮いた状態が続くと、心身は枯れていく。易の象徴を使って、同じことを二度、正と負の両面から語るのは、白隠の説得の工夫である。結論は一つで、元気を常に下に満たせ、ということに尽きる。
この章句が説くこと
易経山地剝衰え元気養生呼吸
関連する章句
-
『夜船閑話』本文夫経脉の十二は、支の十二に配し、月の十二に応じ、時の十二に合す。六爻変化再周して、一歳を全ふするが如し。五陰上に居し、一陽下を占む。是を地雷復と云ふ。冬至の候なり。真人の息は是を息するに踵を以てするの謂か。三陽下に位し、三陰上に居す。是を地天泰と云ふ、孟正の候なり。万物発生の気を含んで百卉春化の沢を受く。至人元気をして下に充たしむるの象、人是を得る則は、営衛充実し、気力勇壮なり。
-
『夜船閑話』本文許俊が云く、蓋し気下焦に在る則は、其息遠く、気上焦に有る則は、其息促まる。上陽子が曰く、人に真一の気有り、丹田の中に降下する則は、一陽また復す。若人始陽初復の候を知らむと欲せば、暖気を以て是が信とすべし。大凡生を養ふの道、上部は常に清凉ならんことを要し、下部は常に温暖ならんことを要せよ。
-
『夜船閑話』本文夫大道分れて両儀あり、陰陽交和して人物生る。先天の元気中間に黙運して、五臓列り経脉行はる。衛気営血互に昇降循環する者、昼夜に大凡五十度、肺金は牝蔵にして膈上に浮び、肝木は牡蔵にして膈下に沈む。心火は大陽にして上部に位し、腎水は大陰にして下部を占む。五臓に七神あり、脾腎各々二神を蔵くす。呼は心肺より出で、吸は腎肝に入る。一呼に脉の行くこと三寸、一吸に脉の行くこと三寸、昼夜に一万三千五百の気息あり、脉一身を巡行すること五十次、火は軽浮にして、つねに騰昇を好み、水は沈重にして常に下流を務む。
-
『夜船閑話』本文幽微々として笑て云く、然らず、李氏云はずや、火の性は炎上なり、宜しく是を下らしむべし。水の性は下れるに就く、宜しく是をして上らしむべし。水上り火下る、是を名づけて交と云ふ。交る則は既済とす。交らざる則は未済とす。交は生の象、不交は死の象なり。李家が謂ゆる清降に偏なりとは、丹渓を学ぶ者の弊を救はむとなり。
-
『夜船閑話』本文時に幽恬如として予が手を捉らへて、精く五内を窺ひ九候を察す。爪甲長きこと半寸、惨乎として顙を攅めてつげて云く、已哉、観理度に過ぎ、進修節を失して、終に此の重症を発す、実に医治し難きものは、公の禅病なり。若し鍼灸薬の三つの物を恃んで而して後に是を救はむと欲せば、扁倉力をつくし華陀顙を攅むるも奇功を見ること能はじ、公今既に観理の為めに破らる、勤めて内観の功を積まずんば、終に起つこと能はじ。是彼の起倒は必ず地に依るの謂なり。
-
『呻吟語』内篇・談道・一斷すれば便ち是れ生死の界乾と姤、坤と復は、對頭相接して一發を間てず。乾坤の盡頭の處は即ち姤復の起頭の處なり。呼吸の相連なるが如く、斷續有ること無し。一たび斷ずれば便ち是れ生死の界なり。