夜船閑話 / 本文
庸流は常に心氣をして上に恣にす。上に恣にする則は、左寸の火、右寸の金を尅して、五官縮まり疲れ、六親苦しみ恨む。是故に漆園曰く、眞人の息は是を息するに踵を以てし、衆人の息は是を息するに喉を以てす。
新字:庸流は常に心気をして上に恣にす。上に恣にする則は、左寸の火、右寸の金を尅して、五官縮まり疲れ、六親苦しみ恨む。是故に漆園曰く、真人の息は是を息するに踵を以てし、衆人の息は是を息するに喉を以てす。
書き下し
庸流は常に心気をして上に恣にす。上に恣にする則は、左寸の火、右寸の金を尅して、五官縮まり疲れ、六親苦しみ恨む。是故に漆園曰く、真人の息は是を息するに踵を以てし、衆人の息は是を息するに喉を以てす。
現代語訳
凡庸な人々は、常に心の気を上でほしいままにさせている。上でほしいままにさせると、左手の脈に表れる心の火が右手の脈に表れる肺の金を剋して、五官は縮こまって疲れ、六親の身内も苦しみ恨むようになる。だから荘子は言った。真人の呼吸はかかとで息をし、衆人の呼吸は喉で息をする、と。
解説
漆園は荘子のことで、漆園の役人をしていたことに由来する呼び名である。引かれているのは『荘子』大宗師篇の有名な句で、道を体得した真人は踵で呼吸し、ふつうの人は喉で呼吸するという。息が浅く喉元でせわしなく出入りするのは、気が上に上がっている状態の現れだ。深い呼吸を足もとから行うイメージは、緊張すると呼吸が浅くなるという経験と結びつけて考えると理解しやすい。まず呼吸の深さに気づくことから始められる。
この章句が説くこと
呼吸荘子真人深呼吸心気緊張
関連する章句
-
荘子・大宗師古の真人は、其の寝ぬるや夢みず、其の覚むるや憂い無し。其の食らうや甘(うま)しとせず、其の息するや深深たり。真人の息は踵(かかと)を以てし、衆人の息は喉を以てす。屈服する者は、其の嗌言(あいげん)哇(か)するが若し。其の耆欲(しよく)深き者は、其の天機浅し。
-
『夜船閑話』本文夫大道分れて両儀あり、陰陽交和して人物生る。先天の元気中間に黙運して、五臓列り経脉行はる。衛気営血互に昇降循環する者、昼夜に大凡五十度、肺金は牝蔵にして膈上に浮び、肝木は牡蔵にして膈下に沈む。心火は大陽にして上部に位し、腎水は大陰にして下部を占む。五臓に七神あり、脾腎各々二神を蔵くす。呼は心肺より出で、吸は腎肝に入る。一呼に脉の行くこと三寸、一吸に脉の行くこと三寸、昼夜に一万三千五百の気息あり、脉一身を巡行すること五十次、火は軽浮にして、つねに騰昇を好み、水は沈重にして常に下流を務む。
-
『夜船閑話』本文許俊が云く、蓋し気下焦に在る則は、其息遠く、気上焦に有る則は、其息促まる。上陽子が曰く、人に真一の気有り、丹田の中に降下する則は、一陽また復す。若人始陽初復の候を知らむと欲せば、暖気を以て是が信とすべし。大凡生を養ふの道、上部は常に清凉ならんことを要し、下部は常に温暖ならんことを要せよ。
-
『夜船閑話』本文若人察せず観照或は節を失し、志念或は度に過る則は、心火熾衝して、肺金焦薄す。金母苦しむ則は水子衰減す。母子互に疲傷して五位困倦し、六属凌奪す。四大增損し各々百一の病を生ず。百薬功を立すること能はず、衆医総に手を束ねて、終に告る処なきに到る。
-
『夜船閑話』本文人身もまた然り、至人は常に心気をして下に充たしむ。心気下に充つる則は、七凶内に動くことなく、四邪また外より窺ふこと能はず。営衛充ち、心神健なり。口終に薬餌の甘酸を知らず、身終に鍼灸の痛痒を受けず。
-
『夜船閑話』本文彭祖が曰く、和神導気の法当さに深く、密室を鎖し、牀を案し、席を煖め、枕の高さ二寸半、正身偃臥し、瞑目して心気を胸膈の中に閉ざし、鴻毛を以て鼻上につけて動ざること三百息を経て、耳聞く処なく、目見る処なく、斯の如くなる則は、寒暑も侵かすこと能はず、蜂蠆も毒すること能はず、寿三百六十歳是真人に近かしと。