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夜船閑話 / 本文

自ら謂らく猛く精彩を着け、重ねて一囘捨命し去んと、越いて牙關を咬定し雙眼睛を瞠開し、寢食ともに廢せんとす。既にして未だ期月に亘らざるに心火逆上し肺金焦枯して雙脚氷雪の底に浸すが如く、兩耳溪聲の間を行くが如し。肝膽常に怯弱にして、擧措恐怖多く、心神困倦し、寐寤種々の境界を見る。兩腋常に汗を生じ、兩眼常に淚を帶ぶ。此において遍く明師に投じ、廣く名醫を探るといへども、百藥寸功なし。

新字:自ら謂らく猛く精彩を着け、重ねて一囘捨命し去んと、越いて牙関を咬定し双眼睛を瞠開し、寝食ともに廃せんとす。既にして未だ期月に亘らざるに心火逆上し肺金焦枯して双脚氷雪の底に浸すが如く、両耳渓声の間を行くが如し。肝胆常に怯弱にして、挙措恐怖多く、心神困倦し、寐寤種々の境界を見る。両腋常に汗を生じ、両眼常に涙を帯ぶ。此において遍く明師に投じ、広く名医を探るといへども、百薬寸功なし。

書き下し

自ら謂らく猛く精彩を着け、重ねて一囘捨命し去んと、越いて牙関を咬定し双眼睛を瞠開し、寝食ともに廃せんとす。既にして未だ期月に亘らざるに心火逆上し肺金焦枯して双脚氷雪の底に浸すが如く、両耳渓声の間を行くが如し。肝胆常に怯弱にして、挙措恐怖多く、心神困倦し、寐寤種々の境界を見る。両腋常に汗を生じ、両眼常に涙を帯ぶ。此において遍く明師に投じ、広く名医を探るといへども、百薬寸功なし。

現代語訳

自分で思った。激しく気力を奮い、もう一度命を捨てる覚悟でやり直そう、と。そこで歯を食いしばり、両目を見開いて、寝ることも食べることもやめようとした。ところが、まだ一か月もたたないうちに、心の火が頭に上り、肺が焦げ枯れたようになって、両足は氷や雪の底に浸しているように冷たく、両耳には谷川の中を歩いているような音が鳴り続けた。肝も胆もいつも縮こまり、立ち居振る舞いに恐れが多く、心身は疲れ果て、寝ても覚めてもさまざまな幻を見る。両脇の下はいつも汗ばみ、両目はいつも涙を帯びている。そこで方々の名師を訪ね、広く名医を探したが、どんな薬も少しの効き目もなかった。

解説

停滞を打ち破ろうと、白隠は寝食を削ってさらに自分を追い込んだ。その結果が、この詳細な症状の記録である。のぼせ、足の冷え、耳鳴り、不安、疲労、幻覚、多汗、涙目。いまでいう自律神経の失調やうつ状態を思わせる。根性で壁を破ろうとして心身を壊すという流れは、いまも多くの人がたどる道だ。医者も薬も効かなかったという一文には、当時の白隠の絶望がにじんでいる。自分の限界の兆候を知る手がかりにもなる。

この章句が説くこと

禅病心火逆上過労不調限界無理

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