夜船閑話 / 序
住菴の諸子此心要を勤めて、はげみ進んで怠らずんば、禪病を治し勞疲を救ふのみにあらず。禪門向上の事に到て、年來疑團あらむ人々は、大に手を拍して大笑する底の大歡喜有らむ。何が故ぞ、月高して城影盡く。
新字:住菴の諸子此心要を勤めて、はげみ進んで怠らずんば、禅病を治し労疲を救ふのみにあらず。禅門向上の事に到て、年来疑団あらむ人々は、大に手を拍して大笑する底の大歓喜有らむ。何が故ぞ、月高して城影尽く。
書き下し
住菴の諸子此心要を勤めて、はげみ進んで怠らずんば、禅病を治し労疲を救ふのみにあらず。禅門向上の事に到て、年来疑団あらむ人々は、大に手を拍して大笑する底の大歓喜有らむ。何が故ぞ、月高して城影尽く。
現代語訳
庵に住む弟子たちよ、この心の要に努め、励み進んで怠らなければ、禅の病を治し疲れを救うだけではない。禅門の向上の事に至って、長年疑いの塊を抱えていた人々は、大いに手を打って大笑いするほどの大きな喜びを得るだろう。なぜか。月が高く昇れば、城の影は消え尽きるからである。
解説
序の結びである。内観は病を治すだけでなく、長年の疑問が晴れる悟りの喜びにまでつながる、と約束する。最後の一句が禅らしい。月が真上に昇れば城の影がなくなるように、心の火が降りて気が満ちれば、迷いの影は自然と消える。無理に影を消そうとしなくても、光の位置が変われば影はなくなる。悩みを一つずつ潰そうとするより、自分の在り方の高さを変えることで解決するという発想を示している。
この章句が説くこと
悟り疑団向上月影内観
関連する章句
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『夜船閑話』序此において諸子歓喜作礼して密々に精修す。各々悉く不思議の奇功を見る。功の遅速は、進修の精麁に依るといへども、大半皆全快す。各々内観の奇功を讃美して休まず。師の曰く、儞が輩心病全快を得て以て足れりとすることなかれ。転々治せば転々参ぜよ。転々悟らば転々進め。
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『夜船閑話』序此において真正参玄の上士両三輩を得て、内観と参禅と共に合せ並らべ貯へて、且つ耕し且つ戦ふ者蓋し茲に三十年。年々一員を添へ二肩を增し得て、今既に二百衆に近かし。其中間方来の衲子、労屈疲倦の族、或は心火逆上し正に発狂せんとする底を憐み、密かに此内観の至要を伝授し、立所に快癒せしめ、転々悟れば転々進ましむ。
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『夜船閑話』序住菴の諸子各々悲泣作礼して云く、吾が師大慈大悲、願くは内観の大略を書せよ。書して留めて後来禅病疲倦吾が輩の如き者を救へ。師即ち頷す。立処に草稿成る。
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『夜船閑話』序是を憐み是を愁て、師不予の色有る者連日、乍ち忍俊不禁にして雲頭を按下し、老婆の臭乳を絞つて是に授るに内観の秘訣を以てす。乃ち云く、若是参禅弁道の上士心火逆上し、身心労疲し、五内調和せざることあらんに、鍼灸薬の三つを以て是を治せんと欲せば、縦ひ華陀扁倉といへども、輙く救ひ得ること能はじ。我に仙人還丹の秘訣あり、儞が輩試に是を修せよ、奇功を見ること、雲霧を披いて皎日を見るが如けん。
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『夜船閑話』序老僧初め参学の時、難治の重病を発して其憂苦、諸子に十倍せり。進退惟谷まる。尋常心にひそかに思惟すらく、生きて此憂愁に沈まんよりは、如かじ早く死して此革囊を捨んにはと。何の幸ぞや、此の内観の秘訣をつたへて全快を得ること、今の諸子の如し。
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『夜船閑話』序妄想の功果つもらば、一身の元気いつしか腰脚足心の間に充足して、臍下瓠然たること、いまだ篠打ちせざる鞠の如けん。恁麼に単々に妄想し将ち去て、五日七日乃至二三七日を経たらむに、従前の五積六聚、気虚労役等の諸症底を払て平癒せずんば、老僧が頭を切り持ち去れ。