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大和俗訓 / 巻之七・躬行下

一周の武王の席銘曰、安樂必敬無行可悔。此銘の意は、艱難にうれひある時は、おそれつゝしみて、過すくなきゆゑ禍なし。心やすく樂きときは、必おこたり油斷して過いでき、わざはひ起る。かゝる心やすき時、殊につゝしむべし。つゝしめば過すくなく、行ふことごとに後悔なし。のぼり坂はなやめる故につまづかず。くだり坂はなやみなくして轉びやすきが如し。

新字:一周の武王の席銘曰、安楽必敬無行可悔。此銘の意は、艱難にうれひある時は、おそれつゝしみて、過すくなきゆゑ禍なし。心やすく楽きときは、必おこたり油断して過いでき、わざはひ起る。かゝる心やすき時、殊につゝしむべし。つゝしめば過すくなく、行ふことごとに後悔なし。のぼり坂はなやめる故につまづかず。くだり坂はなやみなくして転びやすきが如し。

書き下し

一周の武王の席銘曰く、安楽には必ず敬み、悔ゆべきを行ふこと無かれ。此銘の意は、艱難にうれひある時は、おそれつつしみて、過すくなきゆゑ禍なし。心やすく楽きときは、必おこたり油断して過いでき、わざはひ起る。かかる心やすき時、殊につつしむべし。つつしめば過すくなく、行ふことごとに後悔なし。のぼり坂はなやめる故につまづかず。くだり坂はなやみなくして転びやすきが如し。

現代語訳

周の武王の席の銘に「安楽には必ず敬み、悔ゆべきを行うこと無かれ」とあります。この銘の意味は、艱難で憂いのあるときは、恐れつつしんで過ちが少ないので禍がない。心安く楽しいときは、必ず怠り油断して過ちが出て、災いが起こる。このような心安いときこそ、とくにつつしみなさい、ということです。つつしめば過ちが少なく、行うことごとに後悔がありません。上り坂は苦しいのでつまずかない。下り坂は苦しみがないので転びやすいようなものです。

解説

周の武王が座席に刻んで自らを戒めたという銘で、『大戴礼記』武王践阼篇に伝えられています。苦しいときは自然に慎重になるが、楽なときは油断して過ちを犯すので、安楽なときこそ慎めというのです。前の段の順境と逆境の話を、王の座右の銘で裏づけています。上り坂より下り坂で転びやすいというたとえが再び出てくるのは、益軒がこの点を強調したかったからでしょう。業績が好調なとき、試験に受かったあとなど、安心した瞬間にこそ気を引き締めたいものです。

この章句が説くこと

慎み安楽油断座右銘武王

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