大和俗訓 / 巻之六・躬行上
一言行をわかてば、人の身のわざ四となる。視聽言動なり。此四のわざに、皆なすべき所の定れる法あり、是を禮といふ。禮にしたがひて、視聽言動をなすべし。四の事のなすまじき事をなすは、非禮なり。禮は、たとへば工のすみかねの如し。すみかねを用ひざれば、材木あれども用にたゝず。禮を用ひざれば、視聽言動皆道にかなはず。およそ人の人たる所は禮なり。禮なければ、禽獸にちかし。故に禮は身ををさめ、道を行ふ則なり。君子は常に禮を守り行ふ。小人はつねに禮にそむく。是君子と小人のわかるゝ所なり。
新字:一言行をわかてば、人の身のわざ四となる。視聴言動なり。此四のわざに、皆なすべき所の定れる法あり、是を礼といふ。礼にしたがひて、視聴言動をなすべし。四の事のなすまじき事をなすは、非礼なり。礼は、たとへば工のすみかねの如し。すみかねを用ひざれば、材木あれども用にたゝず。礼を用ひざれば、視聴言動皆道にかなはず。およそ人の人たる所は礼なり。礼なければ、禽獣にちかし。故に礼は身ををさめ、道を行ふ則なり。君子は常に礼を守り行ふ。小人はつねに礼にそむく。是君子と小人のわかるゝ所なり。
書き下し
一言行をわかてば、人の身のわざ四となる。視聴言動なり。此四のわざに、皆なすべき所の定れる法あり、是を礼といふ。礼にしたがひて、視聴言動をなすべし。四の事のなすまじき事をなすは、非礼なり。礼は、たとへば工のすみかねの如し。すみかねを用ひざれば、材木あれども用にたたず。礼を用ひざれば、視聴言動皆道にかなはず。およそ人の人たる所は礼なり。礼なければ、禽獣にちかし。故に礼は身ををさめ、道を行ふ則なり。君子は常に礼を守り行ふ。小人はつねに礼にそむく。是君子と小人のわかるる所なり。
現代語訳
言葉と行いを分ければ、人の身のわざは四つになります。見る・聴く・言う・動くです。この四つのわざには、みななすべき定まった法があり、これを礼といいます。礼に従って、見聴言動をしなさい。四つのことで、してはならないことをするのは非礼です。礼は、たとえば大工の墨縄と曲尺のようなものです。墨縄と曲尺を用いなければ、材木があっても役に立ちません。礼を用いなければ、見聴言動はみな道にかないません。およそ人が人である理由は礼です。礼がなければ、鳥獣に近い。だから礼は身を修め道を行う規範です。君子はいつも礼を守り行います。小人はいつも礼にそむきます。これが君子と小人の分かれるところです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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史記 礼書太史公曰く、洋洋たる美徳かな。万物を宰制し、群衆を役使す、豈に人力ならんや。余、大行の礼官に至り、三代の損益を観て、乃ち人情に縁りて礼を制し、人性に依りて儀を作るを知る、其の由りて来たる所尚し。人道は経緯万端、規矩貫かざる所無し。誘ひ進むるに仁義を以てし、束縛するに刑罰を以てす、故に徳厚き者は位尊く、禄重き者は寵栄あり、海内を総一して万民を整斉する所以なり。人体は駕乗に安んず、之が為に金輿錯衡を為りて以て其の飾りを繁くす。目は五色を好む、之が為に黼黻文章を為りて以て其の能を表す。耳は鐘磬を楽しむ、之が為に八音を調諧して以て其の心を蕩かす。口は五味を甘しとす、之が為に庶羞酸鹹を為りて以て其の美を致す。情は珍善を好む、之が為に圭璧を琢磨して以て其の意を通ず。故に大路に越席し、皮弁布裳、朱弦洞越、大羹玄酒は、其の淫侈を防ぎ、其の彫敝を救ふ所以なり。是を以て君臣朝廷尊卑貴賤の序より、下は黎庶の車輿衣服宮室飲食嫁娶喪祭の分に及ぶまで、事に宜適有り、物に節文有り。仲尼曰く、「褅は既に灌してより往は、吾之を観るを欲せず」と。周衰へ、礼廃れ楽壊れ、大小相踰え、管仲の家は三帰を兼備す。法に循ひ正を守る者は世に侮られ、奢溢僭差する者は之を顕栄と謂ふ。子夏は門人の高弟なるより、猶云ふ、「出でては紛華盛麗を見て説び、入りては夫子の道を聞きて楽しむ、二者心に戦ひて、未だ自ら決する能はず」と。而るを況んや中庸以下の、失教に漸漬し、成俗に被服する者をや。孔子曰く「必ずや名を正さんか」と、衛に於いて居る所合はず。仲尼没して後、受業の徒沈湮して挙がらず、或いは斉・楚に適き、或いは河海に入る、豈に痛ましからずや。
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『呻吟語』内篇・談道・禮の世に於けるや大なる哉禮教大いに明らかなれば、中に禮を犯す者一人有らば、則ち眾以て肆なりと為して容るる所無し。禮教明らかならざれば、中に禮を守る者一人有らば、則ち眾以て怪なりと為して容るる所無し。禮の世に於けるや大なる哉。
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史記 礼書歩驟馳騁広騖するも外れず、是を以て君子の性は宮庭を守るなり。人域是れ域とするは、士君子なり。是に外るるは、民なり。是に於いて中し、房皇周浹し、曲直其の次序を得るは、聖人なり。故に厚きとは、礼の積なり。大なるとは、礼の広なり。高きとは、礼の隆なり。明らかなるとは、礼の尽なり。
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礼記・礼運故に唯だ聖人のみ礼の以て已むべからざるを知ると為す。故に国を壊り、家を喪い、人を亡ぼすは、必ず先ず其の礼を去る。故に礼の人に於けるや、猶お酒の糱(げつ)有るがごときなり。君子は以て厚く、小人は以て薄し。
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『春秋左氏伝』文公十八年 莒僕を逐う莒の紀公、大子僕を生み、又季佗を生む。季佗を愛して僕を黜け、且つ多く無禮を國に行ふ。僕國人に因りて以って紀公を弒し、其の寶玉を以って來奔し、諸を宣公に納る。公命じて之に邑を與へしめて曰く、「今日必ず授けよ」と。季文子司寇をして諸を竟に出ださしめて曰く、「今日必ず達せよ」と。公其の故を問ふ。季文子大史克をして對へしめて曰く、「先大夫臧文仲、行父に君に事ふるの禮を教ふ。行父奉じて以って周旋し、敢へて失隊せず。曰く、『其の君に禮有る者を見ては之に事ふること、孝子の父母を養ふが如くせよ。其の君に禮無き者を見ては之を誅すること、鷹鸇(ようせん)の鳥雀を逐ふが如くせよ』と。先君周公周禮を制して曰く、『則は以って德を觀、德は以って事に處し、事は以って功を度り、功は以って民に食(し)ましむ』と。誓命を作りて曰く、『則を毀つを賊と為し、賊を掩ふを藏と為し、賄を竊むを盜と為し、器を盜むを姦と為す。藏の名を主とし、姦の用に賴るは、大凶德為り、常有りて赦す無く、九刑に在りて忘れず』と。行父還(めぐ)りて莒僕を觀るに、則とす可き莫きなり。孝敬忠信を吉德と為し、盜賊藏姦を凶德と為す。夫れ莒僕、則ち其の孝敬は、則ち君父を弒せり。則ち其の忠信は、則ち寶玉を竊めり。其の人は、則ち盜賊なり。其の器は、則ち姦兆なり。保ちて之を利とすれば、則ち藏を主とするなり。以って訓ふれば則ち昏く、民則とする無し。善に度らずして、皆凶德に在り、是を以って之を去る。
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『五常訓』巻之四・礼一君子は、耳に非礼の音楽淫声をきかず。目に非礼なる見物を見ず。口に非礼の事をいはず。身に非礼のうごきをなさず。飲食を慎み、節にして過さず。皆是礼の制する所なり。一口の過なきより、身の過なきは難く、身の過なきより、心の過なき事は難し。三のもの、ともに礼を以て正さずんばあるべからず。
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