大和俗訓 / 巻之五・言語
一人のあしき事は、わが心の中に知りわきまへて、口には出すべからず。一人をそしり、人を言ひおとすこと、不仁の甚しきなり。其上わが身において、つゆばかりも益なし。其人もし聞けば、甚害あり。其そしる所、其實たがはずとも、人をそしるは、厚くおとなしき道にあらず。況や凡夫の人をそしるは、多くは理にあらず。つゝしむべし。
新字:一人のあしき事は、わが心の中に知りわきまへて、口には出すべからず。一人をそしり、人を言ひおとすこと、不仁の甚しきなり。其上わが身において、つゆばかりも益なし。其人もし聞けば、甚害あり。其そしる所、其実たがはずとも、人をそしるは、厚くおとなしき道にあらず。況や凡夫の人をそしるは、多くは理にあらず。つゝしむべし。
書き下し
一人のあしき事は、わが心の中に知りわきまへて、口には出すべからず。一人をそしり、人を言ひおとすこと、不仁の甚しきなり。其上わが身において、つゆばかりも益なし。其人もし聞けば、甚害あり。其そしる所、其実たがはずとも、人をそしるは、厚くおとなしき道にあらず。況や凡夫の人をそしるは、多くは理にあらず。つつしむべし。
現代語訳
人の悪いことは、自分の心の中で知りわきまえて、口には出してはいけません。人をそしり、人をけなすことは、はなはだしい不仁です。そのうえ自分の身には、少しも益がありません。その人がもし聞けば、たいへん害があります。そのそしるところが事実と違わなくても、人をそしるのは、手厚く大人らしい道ではありません。まして凡人が人をそしるのは、多くは道理に合いません。つつしみなさい。
解説
この章句が説くこと
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『初学訓』巻之二一およそ、人となりては、常に愛敬の心をたもちて、少時も失ふべからず。愛とは、人を憐むをいふ。人をにくみ疎んぜざるなり。其交の親しき疎きによりて、愛の厚薄品はかはれども、すべて疎きも親しきも、愛せずといふこと無かるべし。敬とは、人をうやまふをいふ。人を侮り軽んぜざるなり。其位の尊き卑き品によりて、敬の浅深はかはれども、すべて、敬ひ侮るべからず。愛はしたしきより生じ、敬は貴きより生ずれども、うときをも愛し、いやしきをも敬するは、真の愛敬なり。親疎貴賤、すべて愛敬するは仁なり。親疎貴賤の品によりて、厚薄浅深あるは義なり。愛敬の二は、善心なり。善を行ふとは、愛敬を行ふなり。是、人倫を親むの道、即ち、天地につかへ奉る道なり。
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