導師導古典を学びたいすべての人に

大和俗訓 / 自序

こゝを以て、人の誹をうれひざるなるべし。今われ犬馬のとしすでにやそぢにせまり、なす事なくて此世くれ行くなべに、こよみのぢくあらはれたるごとくなれば、やがて草木と同じく、はかなくくちはてなんとうらめしくて、わが身のざえのつたなきをわすれ、みだりにつとめて筆をおこし侍る。老らくの身は、心も目もたどたどしければ、いかなるひが事を書きけんもうしろめたし。世の中に、われと志を同じくする人もありて、此書のあやまりおほくしてひがひがしきことをよく改めつくりて、世をさとし給はゞ、まことにねがはしきほいにかなへるなるべし。

書き下し

ここを以て、人の誹をうれひざるなるべし。今われ犬馬のとしすでにやそぢにせまり、なす事なくて此世くれ行くなべに、こよみのぢくあらはれたるごとくなれば、やがて草木と同じく、はかなくくちはてなんとうらめしくて、わが身のざえのつたなきをわすれ、みだりにつとめて筆をおこし侍る。老らくの身は、心も目もたどたどしければ、いかなるひが事を書きけんもうしろめたし。世の中に、われと志を同じくする人もありて、此書のあやまりおほくしてひがひがしきことをよく改めつくりて、世をさとし給はば、まことにねがはしきほいにかなへるなるべし。

現代語訳

こういうわけで、人の非難を気にかけないのでしょう。今私は、犬馬のような取るに足らない年齢もすでに八十に迫り、何事もなさずにこの世が暮れていく中で、暦の巻物の軸が見えてきたような(残りわずかの)身なので、やがて草木と同じように、はかなく朽ち果ててしまうのだと思うと恨めしく、自分の才の拙さを忘れて、むやみに努めて筆を起こしたのです。老いた身は心も目もおぼつかないので、どんな間違いを書いてしまったかと気がかりです。世の中に私と志を同じくする人がいて、この書の誤りが多くひがんだ所をよく改め作り直して世を諭してくださるなら、まことに願わしい本意にかなうことでしょう。

解説

自序の結びです。本書は宝永5年(1708年)、益軒79歳の作で、「やそぢにせまり」はその年齢をそのまま言っています。暦の軸が見えるとは、巻物の暦が残り少なくなった様子で、残された時間の短さのたとえです。益軒は、老いて誤りも多いだろうから、志を同じくする人が直して世に役立ててほしいと結びます。自分の仕事を完成品として抱え込まず、後の人が手を入れることを歓迎する姿勢は、仕事を引き継ぐときや、組織に知恵を残すときの心構えとして学ぶところがあります。

この章句が説くこと

老い志謙遜継承学問

関連する章句

古典の入門書『人生の教科書』の表紙

人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。

古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。

本の中身を見る
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)+師導1か月=700円 本を見る