和俗童子訓 / 巻之五・教女子法
業平の妻の、夜半にや君がひとり行くらんと詠みしこそ、誠に女の道にかなひて、やさしく聞ゆめれ。およそ婦人の、心猛く怒多きは、しうと夫に疎まれ、家人に謗られて、家を亂し人をそこなふ。女の道に於て大に背けり。腹たつことあらば、おさへて忍ぶべし。色に顯すべからず。女は物ねんじして、心ののどかなるこそ、幸も見はつる理なれ。五曰、夫もし不義あり過あらば、我が色を和け、聲を悅ばしめ、氣をへり下りて諫むべし。諫を聽かずして怒らば、先しばらく止めて、後に夫の心和ぎたる時、また諫むべし。夫不義なりとも、顏色を烈しくし、聲をいらゝげ、心氣をあらくして、夫にさからひ背く事なかれ。是また婦女の敬順の道に背くのみならず、夫に疎まるゝわざなり。
新字:業平の妻の、夜半にや君がひとり行くらんと詠みしこそ、誠に女の道にかなひて、やさしく聞ゆめれ。およそ婦人の、心猛く怒多きは、しうと夫に疎まれ、家人に謗られて、家を乱し人をそこなふ。女の道に於て大に背けり。腹たつことあらば、おさへて忍ぶべし。色に顕すべからず。女は物ねんじして、心ののどかなるこそ、幸も見はつる理なれ。五曰、夫もし不義あり過あらば、我が色を和け、声を悦ばしめ、気をへり下りて諫むべし。諫を聴かずして怒らば、先しばらく止めて、後に夫の心和ぎたる時、また諫むべし。夫不義なりとも、顔色を烈しくし、声をいらゝげ、心気をあらくして、夫にさからひ背く事なかれ。是また婦女の敬順の道に背くのみならず、夫に疎まるゝわざなり。
書き下し
業平の妻の、夜半にや君がひとり行くらんと詠みしこそ、誠に女の道にかなひて、やさしく聞ゆめれ。およそ婦人の、心猛く怒多きは、しうと夫に疎まれ、家人に謗られて、家を乱し人をそこなふ。女の道に於て大に背けり。腹たつことあらば、おさへて忍ぶべし。色に顕すべからず。女は物ねんじして、心ののどかなるこそ、幸も見はつる理なれ。五曰、夫もし不義あり過あらば、我が色を和け、声を悦ばしめ、気をへり下りて諫むべし。諫を聴かずして怒らば、先しばらく止めて、後に夫の心和ぎたる時、また諫むべし。夫不義なりとも、顔色を烈しくし、声をいららげ、心気をあらくして、夫にさからひ背く事なかれ。是また婦女の敬順の道に背くのみならず、夫に疎まるるわざなり。
現代語訳
業平の妻が「夜半にや君がひとり行くらん」と詠んだのこそ、まことに女の道にかなって、やさしく聞こえます。およそ婦人で、心が猛々しく怒りの多い者は、舅や夫に疎まれ、家の者に謗られて、家を乱し人を損ないます。女の道において大いに背いています。腹が立つことがあれば、抑えてこらえなさい。顔色に表してはなりません。女性は物事をじっとこらえて、心がのどかであってこそ、幸いも最後まで見届けられる道理です。五に言う。夫にもし不義や過ちがあれば、自分の顔色を和らげ、声を穏やかにし、気持ちをへりくだって諫めなさい。諫めを聞かずに怒ったら、まずしばらくやめて、後で夫の心が和らいだ時に、また諫めなさい。夫が不義であっても、顔色を激しくし、声を荒らげ、心を荒くして、夫に逆らい背いてはなりません。これはまた婦女の敬順の道に背くばかりでなく、夫に疎まれることです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法故に女は常に夫を敬ひ畏れて、慎み事ふべし。夫に賤められ責めらるるは、我が心より出でたる恥なり。三曰、こじうとこじうとめは、夫の兄弟なれば、情深くすべし。又こじうと、こじうとめに謗られ悪まるれば、しうとの心に背きて、我が身の為にもよからず。睦じく和睦すれば、しうとの心にかなふ。然ればこじうとの心も亦失ふべからず。又あひよめを親しみ睦じくすべし。殊に夫の兄嫁はあつく敬ふべし。あひよめは我が姉と同じくすべし。座につくも、道を行くも、へり下り後れて行くべし。四曰、嫉妬の心、ゆめゆめおこすべからず。夫淫行あらば諫むべし、怒り恨むべからず。嫉妬甚しければ、其気色言葉もおそろしく、すさまじくして、かへりて夫に疎まれ、すさめらるるものなり。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法夫の事、舅姑の事、こじうとの事など、我が心に合はぬ事あれば、みだりに其主に謗り聞かせて、それをかへりて忠と思へり。婦人もし智恵なくして、それを信じては、必恨出来易し。固より、夫の家は皆他人なれば、恨み背き恩愛を捨つる事易し。慎んで、下女の言を信じ、大切なるしうと小じうとの親みを薄くすべからず。もし下女すぐれてかたましく、口がましくて悪しきものならば、早く追ひやるべし。かやうのものは、必、家道を乱し、親戚の中をも言ひ妨ぐるものなり。恐るべし。又下女などの人を謗るを聞き用ふる事なかれ。殊に夫の方の一類の事を、かりそめにも謗らしむべからず。下女の口を信じては、舅姑夫こじうとなどに和睦なくして、恨み背くに至る。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法軽しめ侮るべからず。和ぎ順ひて、其心に違ふべからず。凡婦人の道は従ふにあり。夫に対するに、顔色言葉遣慇懃にへり下り、和順なるべし。いぶりにして不順なるべからず。おごりて無礼なるべからず。是女子第一のつとめなり。夫の教いましめあらば、其命に背くべからず、疑はしき事は、夫に問ひて、其命を受くべし。夫問ふ事あらば、正しく答ふべし。其いらへおろそかにすべからず。答の正しからず、其理聞えざるは無礼なり。夫もし怒り責むる事あらば、おそれて従ふべし。怒り争ひて、其心に逆ふべからず。それ婦人は夫を以て天とす。夫を侮ることは、かへすがへすあるべからず。夫を侮り背きて、天より怒り責めらるるに至るは、是婦人の不徳の甚しきにて、大なる恥なり。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法然れば我が悪しき生れつきを知りて、力を用ひ悪しきを改めて、善きに移るべし。此五の内、まづ父母に順はざるとは、夫の家に在りて、舅姑に順はざるは、婦人第一の悪なり。然れば夫の去るはことわりなり。次に妻を娶るは子孫相続の為なれば、子なければ去るもむべなり。されど其婦の心和かに行正しくて、嫉妬の心なく、婦の道に背かずして、夫しうとの心にかなひなば、夫の家族同姓の子を養ひ、家を継がしめて、婦を出すに及ばず。或は又妾に子あらば、妻に子なくとも去るに及ぶべからず。次に淫乱なるは、我が夫に背き、他の男に心をかよはすなり。婦女は万の事いみじくとも、此穢行だにあらば、何事のよきも見るに足らず。是女の堅く心に戒め慎むべき事なり。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法六曰、言を慎みて多くすべからず。仮にも人をそしり、偽を言ふべからず。人の謗を聞くことあらば、心にをさめて、人に伝へ語るべからず。謗を言ひ伝ふるより、父子、兄弟、夫婦、一家の間も不和になり、家内治まらず。七曰、女は常に心遣ひして、其身をかたく慎み守るべし。夙におき夜半にいね、昼はいねずして家事に心を用ひ、怠なく勤めて、家を治め、織り、縫ひ、うみ、つむぎ怠るべからず。又酒茶など多く好みて、癖とすべからず。淫声を聞くことを好みて、淫楽を習ふべからず。是女子の心をとらかすもの也。たはぶれ遊を好むべからず。宮寺などすべて人の多く遊ぶ所に、四十歳より内は、妄に行くべからず。八曰、巫覡などのわざにまよひて、神仏を穢し近づき、みだりに祈り諂ふべからず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法慎んで讒を信ずべからず。甚恐るべし。又賤しき者を使ふには、我が思ふにかなはぬ事のみ多し。夫を怒りのりて止まざれば、せはしく腹立つ事多く、家の内静ならず。悪しき事は、時々言ひ教へて、誤を正すべし、怒りのるべからず。少しの過は、こらへて怒るべからず。心の内にはあはれみ深くして、外には行儀堅く、いましめて怠らざるやうに使ふべし。いるがせなれば、必行儀乱れ怠りがちにて、礼義を背き、とがを犯すに至る。与へ恵むべき事あらば、財を惜むべからず。但我が気に入りたるとて、忠なきものに、みだりに財物を与ふべからず。
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