和俗童子訓 / 巻之三・読書法
一小兒の記性を計つて、七歲より以上入學せしむ。初は早晨に書を讀ませ、食後には讀ましめず、其精神を苦むる事勿れ。半歲の後は、食後にも亦令讀べし。一凡書を讀むには、いそがはしく早く讀むべからず。詳緩に讀之て、字々句々分明なるべし。一字をも誤るべからず。必心到り眼到り口到るべし。此三到の内、心到を先とす。心不在此、見れども見えず。心到らずしては、みだりに口に讀めども覺えず。又俄にしひて諳に讀み覺えても、久しきを歴れば忘る。唯心をとめて、多く遍數を誦すれば、自然と覺えて、久しく忘れず。遍數を計へて熟讀すべし。一書熟して後、又一書を讀むべし。聖經賢傳の益ある書の外、雜書を見るべからず。心を正しくし、行儀を愼み、妄に言はず、笑はず、妄に外に出入せず、妄に動作せず、志を學に專一にすべし。常に暇を惜みて、用もなきに、徒に隙を費すべからず。
新字:一小児の記性を計つて、七歳より以上入学せしむ。初は早晨に書を読ませ、食後には読ましめず、其精神を苦むる事勿れ。半歳の後は、食後にも亦令読べし。一凡書を読むには、いそがはしく早く読むべからず。詳緩に読之て、字々句々分明なるべし。一字をも誤るべからず。必心到り眼到り口到るべし。此三到の内、心到を先とす。心不在此、見れども見えず。心到らずしては、みだりに口に読めども覚えず。又俄にしひて諳に読み覚えても、久しきを歴れば忘る。唯心をとめて、多く遍数を誦すれば、自然と覚えて、久しく忘れず。遍数を計へて熟読すべし。一書熟して後、又一書を読むべし。聖経賢伝の益ある書の外、雑書を見るべからず。心を正しくし、行儀を慎み、妄に言はず、笑はず、妄に外に出入せず、妄に動作せず、志を学に専一にすべし。常に暇を惜みて、用もなきに、徒に隙を費すべからず。
書き下し
一小児の記性を計つて、七歳より以上入学せしむ。初は早晨に書を読ませ、食後には読ましめず、其精神を苦むる事勿れ。半歳の後は、食後にも亦読ましむべし。一凡書を読むには、いそがはしく早く読むべからず。詳緩に之を読みて、字々句々分明なるべし。一字をも誤るべからず。必心到り眼到り口到るべし。此三到の内、心到を先とす。心此に在らざれば、見れども見えず。心到らずしては、みだりに口に読めども覚えず。又俄にしひて諳に読み覚えても、久しきを歴れば忘る。唯心をとめて、多く遍数を誦すれば、自然と覚えて、久しく忘れず。遍数を計へて熟読すべし。一書熟して後、又一書を読むべし。聖経賢伝の益ある書の外、雑書を見るべからず。心を正しくし、行儀を慎み、妄に言はず、笑はず、妄に外に出入せず、妄に動作せず、志を学に専一にすべし。常に暇を惜みて、用もなきに、徒に隙を費すべからず。
現代語訳
子どもの記憶力を見計らって、七歳以上で入学させます。初めは早朝に書物を読ませ、食後には読ませず、その精神を苦しめてはなりません。半年たったら、食後にも読ませなさい。およそ書物を読むには、せかせかと早く読んではなりません。細かくゆっくりと読んで、一字一字、一句一句をはっきりさせなさい。一字も誤ってはなりません。必ず心が到り、目が到り、口が到るようにしなさい。この三到のうち、心到を第一とします。心がここになければ、見ても見えません。心が到らなければ、むやみに口で読んでも覚えられません。また急に無理に暗記しても、時がたてば忘れます。ただ心をとめて、多くの回数を繰り返し唱えれば、自然に覚えて、長く忘れません。回数を数えて熟読しなさい。一冊の書物に熟達してから、また別の一冊を読みなさい。聖人の経書や賢人の伝など益のある書物のほかは、雑書を見てはなりません。心を正しくし、行儀を慎み、むやみに話さず、笑わず、むやみに外へ出入りせず、むやみに動かず、志を学問に専一にしなさい。いつも時間を惜しんで、用もないのにむだに暇を費やしてはなりません。
解説
この章句が説くこと
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一凡書を読むには、早く先を読むべからず。毎日返り読を専ら勤むべし。返り読を数十遍勤め終りて、其先を読むべし。然らずして、唯はかゆかん事を好みて、返り読少なければ、必忘れて、我が習ひし功も、師の教へし功もすたりて、広く数十巻の書を読んでも益なし。一巻にても能く覚ゆれば、学力となりて、功用をなす。必よくおぼゆべし。書を読んでも、学進まざるは、熟読せずして覚えざればなり。才性あらば、八歳より十四歳まで、七年の間に、小学、四書、五経等、皆読み終る。四書五経熟読すれば、才力いでき、学問の本たつ。其力を以て、やうやく年長じて、広く群書を見るべし。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一書を読むには、必句読を明かにし、よみこゑを詳かにし、清濁を分ち、訓点に誤なく、てにはを精しくすべし。世俗の疎なる謬に従ふべからず。一書を読むに、当時略熟誦しても、久しく読まざれば必忘る。故に書を読み終つて後、既に読みたる書を、時々かへり読むべし。又毎日前の三四五度に授かりたる所を、今日読み習ふ所に通して、あとを読むべし。如此すれば忘れず。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一小児に初て書を授くるには、文句を長く教ふべからず。一句二句教ふ。また一度に多く授くべからず。多ければ覚え難く、覚えても堅固ならず、其上厭ひ倦んで学を嫌ふ。必退屈せざるやうに、少しづつ授くべし。其教へやうは、初は唯一字二字三字づつ字を知らしむべし。其後、一句づつ教ふべし。既に字を知り句を覚えば、小児をして自ら読ましむべし。両句を教ふるには、まづ一句を読み覚えさせ、熟読すれば、次の句を又右の如くに読ましめ、既に熟読して、前句と後句と通読せしめて止むべし。如此する事数日にして、後又一両句づつ、漸に添へて授くべし。其後授くるに、やうやく字多ければ、分つて二三次となして、授け読ましめ、其二三次、各熟読して、合せて通読せしむ。もし其中覚え難き所あらば、其所ばかり又数遍読ましむ。又甚読み易き所をば、分ち読む時は読むべからず。是省功の法なり。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一小児の文学の教は、事しげくすべからず、事しげく、文句多くしてむつかしければ、学問を苦みて、うとんじ嫌ふ心出来る事あり。故に簡要をえらびて、事少なく教ふべし。少しづつ教へ、よみ習ふ事を嫌はずして、すき好むやうに教ふべし。むつかしく辛労にして、其気を屈せしむべからず。日々のつとめの課程を、よきほどに短く定めて、日々に怠りなく進むべし。凡小児を教ふるには、必師あるべし。もし外の師なくば、其父兄自ら日々の課程を定めて、読ましむべし。父兄辛労せざれば、教行はれず。一初て書を読むには、まづ文句短くして、読み易く覚え易き事を教ふべし。初より文句長き事を教ふれば、退屈し易し。易きを先にし、難きを後にすべし。
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『和俗童子訓』巻之三・読書法一およそ書を読むには、必まづ手を洗ひ、心に慎み、容を正しくし、几案のほとりを払ひ、書册を正しく几上におき、跪きて読むべし。師に書を読み習ふ時は、高き几案の上に置くべからず。帙の上、或は文匣矮案の上に乗せて読むべし。必人の蹈む席上に置くべからず。書を穢す事なかれ。書を読み終らば、もとの如くおほひ納むべし。もし急速の事ありてたち去るとも、必をさむべし。又書をなげ、書の上を越ゆべからず。書を枕とする事なかれ。書の脳を巻きて、折りかへす事勿れ。唾を以て幅を揚ぐる事勿れ。故紙に経伝の詞義聖賢の姓名あらば、慎みて他事に用ふべからず。又君上の御名、父母の姓名ある故紙をも穢すべからず。
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『和俗童子訓』巻之三・随年教法一今年の春より、真と草との文字を書きならはしむべし。はじめより風体正しき能書を学ばしむべし。手跡つたなく、風体悪しきを手本として習へば、悪しき事くせとなり、後に風体よき能書をならへども移らず。初は真草ともに、大字を書き習はしむべし、初より小字を書けば、手すくみて働かず。又此年より、早く文字を読み習はしむべし。孝経小学四書などの類の、文句長きむつかしきものは、初より読み難く、覚え難く、退屈し、学問を嫌ふ心出できて悪しし。まづ文句の短くして読易く、覚えやすきものを読ませ、そらに覚えさすべし。
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