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尉繚子 / 天官

按天官曰:『背水陣為絶地,向阪陣為廢軍。』武王伐紂,背濟水,向山阪而陳,以二萬二千五百人擊紂之億萬而滅商,豈紂不得天官之陳哉?楚將公子心與齊人戰,時有彗星出,柄在齊。柄所在勝,不可擊。公子心曰:『彗星何知?以彗鬭者,固倒而勝焉。』明日與齊戰,大破之。黄帝曰:『先神先鬼,先稽我智。』謂之天官,人事而已。」

新字:按天官曰:『背水陣為絶地,向阪陣為廃軍。』武王伐紂,背済水,向山阪而陳,以二万二千五百人撃紂之億万而滅商,豈紂不得天官之陳哉?楚将公子心与斉人戦,時有彗星出,柄在斉。柄所在勝,不可撃。公子心曰:『彗星何知?以彗闘者,固倒而勝焉。』明日与斉戦,大破之。黄帝曰:『先神先鬼,先稽我智。』謂之天官,人事而已。」

書き下し

天官を按ずるに曰く、『水を背にして陣するを絶地と為し、阪に向かひて陣するを廃軍と為す』と。武王の紂を伐つや、済水を背にし、山阪に向かひて陳し、二万二千五百人を以て紂の億万を撃ちて商を滅ぼせり。豈に紂、天官の陳を得ざらんや。楚の将公子心、斉人と戦ふ。時に彗星出づる有り、柄は斉に在り。柄の在る所は勝つ、撃つべからずと。公子心曰く、『彗星何をか知らん。彗を以て闘ふ者は、固より倒(さかしま)にして勝つ』と。明日斉と戦ひ、大いに之を破る。黄帝曰く、『神に先んじ鬼に先んずるは、先づ我が智に稽(かんが)ふ』と。之を天官と謂ふは、人事のみ。」

現代語訳

天官の書を調べると、『川を背にして布陣するのを絶地(逃げ場のない死地)といい、坂に向かって布陣するのを廃軍(役に立たない軍)という』とある。だが周の武王が殷の紂王を討ったとき、済水を背にし、山の坂に向かって陣を布き、二万二千五百人で紂王の億万の兵を撃って商(殷)を滅ぼした。紂王の側が天官にかなう陣を得ていなかったなどということがあろうか。また楚の将軍の公子心(こうししん)が斉の軍と戦ったとき、ちょうど彗星が現れ、その柄(尾の根元)は斉の方にあった。柄のある側が勝つので撃ってはならないとされた。公子心は言った。『彗星に何がわかるものか。彗(ほうき)で戦うなら、もともと逆さに持って叩くほうが勝つのだ』。翌日斉と戦い、大いにこれを破った。黄帝は『神霊にうかがう前に、まず自分の知恵で考えよ』と言っている。天官というものも、結局は人事にすぎないのである。」

解説

天官篇の後半で、占いに逆らって勝った実例を二つ挙げる。一つは周の武王が、兵法書の禁じる背水・向阪の陣で殷の大軍を破った話、もう一つは楚の公子心が、不吉とされた彗星の向きを「ほうきは逆さに持って叩くものだ」と笑い飛ばして斉を破った話である。締めくくりに黄帝の言葉として「神に先んじて、まず我が智に稽えよ」を引き、天官とは人事にほかならないと結ぶ。尉繚子は天文や日取りを一律に否定するというより、それを判断の主役にすることを退けている。今でいえば、縁起やジンクス、業界の定説に頼る前に、自分たちの頭で状況を分析し、打てる手を尽くすことが先だという姿勢である。

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