うひ山ぶみ / 第三十四段
凡て件の書ども、かならずしも次第を定めてよむにも及ばず、たゞ便にまかせて、次第にかゝはらず、これをもかれをも見るべし、
書き下し
凡て件の書ども、かならずしも次第を定めてよむにも及ばず、たゞ便にまかせて、次第にかゝはらず、これをもかれをも見るべし、
現代語訳
総じてこれらの書物は、必ずしも順序を定めて読むには及ばない。ただ都合に任せて、順序にこだわらず、あれもこれも見るべきである。
解説
読む順序をあれこれ示してきた宣長が、ここで順序へのこだわりを解く。都合に任せて、順序を気にせず、あれもこれも読め、と。前段までの指示は、取りつく先がない人への手がかりであって、守らなければならない規則ではない。この緩め方は、書の前半で学び方は本人の心に任せてよいと述べたことと一貫している。手順を示しつつ、その手順に縛られるなと言い添える。順序を完璧に整えてから始めようとして、いつまでも始まらない。この落とし穴を宣長は知っていたのだろう。
この章句が説くこと
読書順柔軟性着手計画学び方
関連する章句
-
説苑・說叢謁問析辭には應ずる勿かれ、怪言虛說には稱する勿かれ。謀事に先んずれば則ち昌え、事謀に先んずれば則ち亡ぶ。
-
『驢鞍橋』卷下去る時、我も同組にて、大坂御番に当ることあり、高木主水の所にて頭振舞有り、互に乱酒に成り、打解け、跡を頼むそ、先を頼むそと、道中宿々の約束迄云ひ合はし、みたれたる座に成て果てす、鈴木殿は常に人に混せす、打上て柱に打懸り、きつとすみの目使つて居る人也。其日も如是して居給ひけるか、つゝと坐中に出て、扨て扨て各はねはいことを仰せ有る者哉道中跡先のこと迄、今約束有りても、争か当らんや。分別の仕置用に立たぬ物也。何が大事の御番に参る身か、我人生て参らんす、門を出るよりつんと命を捨て死切て出て、其時々に随て事を作さん迄よと云ひ給へば、頭を始め皆尤もと受けられたり。一坐の人々胸つゝ切れて、心安く成りたると云はれたると也。
-
李衛公問対・卷上《孫子》に謂う、『多筭は少筭に勝つ』と。以て少筭の無筭に勝つを知る有り。凡そ事皆な然り。
-
『学問のすゝめ』十四編・心事の棚卸し・十年前に企てたることを今すでに成したりまた世間に事を企つる人の言を聞くに、「生涯のうち」または「十年のうちにこれを成す」と言う者はもっとも多く、「三年のうち」、「一年のうちに」と言う者はやや少なく、「一月のうち」、あるいは「今日この事を企てて今まさにこれを行なう」と言う者はほとんどまれにして、「十年前に企てたることを今すでに成したり」と言うがごときは余輩いまだその人を見ず。かくのごとく、期限の長き未来を言うときにはたいそうなることを企つるようなれども、その期限ようやく近くして今月今日と迫るに従いて、明らかにその企ての次第を述ぶること能わざるは、畢竟ことを企つるに当たりて時日の長短を勘定に入れざるより生ずる不都合なり。
-
論語・衛霊公篇子曰わく、巧言は徳を乱し、小を忍ばざれば則ち大謀を乱す。
-
孫子・形篇是の故に勝兵はまず勝ちて後に戦い、敗兵はまず戦いて後に勝ちを求む。