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うひ山ぶみ / 注[オ]後世風の中にもさまざまよきあしきふり

然れども大かた光孝天皇宇多天皇の御代のころよりこなたの哥は、万葉なるとはいたくかはりて、後世風の方にちかきさまなれば、此集をば、姑く後世風の始めの、めでたき哥とさだめて、明暮にこれを見て、今の京となりてよりこなたの、哥といふ物のすべてのさまを、よく心にしむべき也、次に後撰集拾遺集は、えらびやう甚ダあらくみだりにして、えもいはぬわろき哥の多き也、然れどもよき哥も又おほく、中にはすぐれたるもまじれり、さて次に後拾遺集よりこなたの、代々の撰集ども、つぎつぎに盛衰善惡さまざまあれども、そをこまかにいはむには、甚ダ事長ければ、今は省きて、その大抵をつまみていはば、其間ダに新古今集は、そのころの上手たちの哥ごもは、意も詞もつゞけざまも、一首のすがたも、別に一ツのふりにて、前にも後にもたぐひなく、其中に殊によくとゝのひたるは、後世風にとりては、えもいはずおもしろく心ふかくめでたし、そもそも上代より今の世にいたるまでを、おしわたして、事のたらひ備りたる、哥の眞盛は、

新字:然れども大かた光孝天皇宇多天皇の御代のころよりこなたの歌は、万葉なるとはいたくかはりて、後世風の方にちかきさまなれば、此集をば、姑く後世風の始めの、めでたき歌とさだめて、明暮にこれを見て、今の京となりてよりこなたの、歌といふ物のすべてのさまを、よく心にしむべき也、次に後撰集拾遺集は、えらびやう甚ダあらくみだりにして、えもいはぬわろき歌の多き也、然れどもよき歌も又おほく、中にはすぐれたるもまじれり、さて次に後拾遺集よりこなたの、代々の撰集ども、つぎつぎに盛衰善悪さまざまあれども、そをこまかにいはむには、甚ダ事長ければ、今は省きて、その大抵をつまみていはば、其間ダに新古今集は、そのころの上手たちの歌ごもは、意も詞もつゞけざまも、一首のすがたも、別に一ツのふりにて、前にも後にもたぐひなく、其中に殊によくとゝのひたるは、後世風にとりては、えもいはずおもしろく心ふかくめでたし、そもそも上代より今の世にいたるまでを、おしわたして、事のたらひ備りたる、歌の真盛は、

書き下し

然れども大かた光孝天皇宇多天皇の御代のころよりこなたの歌は、万葉なるとはいたくかはりて、後世風の方にちかきさまなれば、此集をば、姑く後世風の始めの、めでたき歌とさだめて、明暮にこれを見て、今の京となりてよりこなたの、歌といふ物のすべてのさまを、よく心にしむべき也、次に後撰集拾遺集は、えらびやう甚ダあらくみだりにして、えもいはぬわろき歌の多き也、然れどもよき歌も又おほく、中にはすぐれたるもまじれり、さて次に後拾遺集よりこなたの、代々の撰集ども、つぎつぎに盛衰善悪さまざまあれども、そをこまかにいはむには、甚ダ事長ければ、今は省きて、その大抵をつまみていはば、其間ダに新古今集は、そのころの上手たちの歌どもは、意も詞もつゞけざまも、一首のすがたも、別に一ツのふりにて、前にも後にもたぐひなく、其中に殊によくとゝのひたるは、後世風にとりては、えもいはずおもしろく心ふかくめでたし、そもそも上代より今の世にいたるまでを、おしわたして、事のたらひ備りたる、歌の真盛は、

現代語訳

けれども、おおよそ光孝天皇・宇多天皇の御代の頃からこちらの歌は、万葉のものとはひどく変わって、後世風の方に近い様子なので、この集をしばらく後世風の始めのすばらしい歌と定めて、明け暮れこれを見て、今の京となってからこちらの、歌というもののすべての様子を、よく心にしみこませるべきである。次に『後撰集』『拾遺集』は、選び方がはなはだ粗く乱れていて、言いようもなく悪い歌が多い。けれども良い歌もまた多く、中にはすぐれたものも混じっている。さて次に『後拾遺集』からこちらの代々の撰集は、次々に盛衰善悪がさまざまあるが、それを細かく言うとはなはだ長くなるので、今は省いて、その大要をつまんで言えば、その間で『新古今集』は、その頃の上手たちの歌どもは、意も詞も続け方も一首の姿も、別に一つの風であって、前にも後にも類がなく、その中で特によく整ったものは、後世風にとっては言いようもなく趣深く、心深くすばらしい。そもそも上代から今の世に至るまでを見渡して、事が満ち足りて備わった歌の真っ盛りは、

解説

注[オ]は、本文の「後世風の中にもさまざまよきあしきふり」を受け、勅撰集を一つずつ評していく。古今集は光孝・宇多朝以後の歌が後世風に近いので、後世風の始まりのすぐれた歌として朝夕に見て心にしみこませよという。後撰集・拾遺集は選びが粗く悪い歌も多いが、良い歌も多い。そして新古今集については、意も詞も姿も前後に類のない一風で、よく整ったものは言いようもなく趣深いと絶賛する。万葉を尊んだ真淵の門から出た宣長が新古今を高く評価したことは、師との大きな違いとして知られる。集ごとに長所と短所を分けて見る態度は、先の白妙衣と染衣のたとえの実践でもある。あなたは一つの流派や時代を、まとめて良い、悪いと決めていないだろうか。

この章句が説くこと

古今集新古今集勅撰集後世風歌論

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