徒然草 / 第64段
「車の五緒は必ず人によらず、ほどにつけて極むる官位に至りぬれば乘るものなり。」とぞ、ある人おほせられし。
新字:「車の五緒は必ず人によらず、ほどにつけて極むる官位に至りぬれば乗るものなり。」とぞ、ある人おほせられし。
書き下し
「車の五緒は必ず人によらず、ほどにつけて極むる官位に至りぬれば乗るものなり。」とぞ、ある人おほせられし。
現代語訳
「牛車の五緒(いつつお、車の装飾)は必ずしも身分の高い人に限らず、それぞれの官位に応じて、行き着くべき官位に至れば乗るものである。」と、ある人がおっしゃった。
解説
牛車の装飾である「五緒」を使う資格について、当時の故実を伝える短い段です。五緒は特定の家柄や身分の人だけが用いるものと思われがちですが、実際にはその人固有の生まれや家柄ではなく、官位という制度上の到達点によって定まるものだと、ある人の言葉を借りて説明しています。宮廷社会における装束や調度品の細かな決まりごとには、単なる慣習ではなく、官位制度と結びついた合理的な基準が存在していたことを示す一節です。兼好はこうした有職故実(儀式・制度に関する知識)を随所に書き留めており、当時の貴族社会の仕組みを知るための貴重な記録となっています。現代でも、地位や役職に応じて与えられる権限や待遇が、個人の属性ではなく制度上の到達点に基づいて決まる仕組みは共通しており、制度と身分の関係を考える手がかりになります。
この章句が説くこと
車の五緒有職故実官位牛車身分制度故実