酔古堂剣掃 / 集倩・風流頓に減ず
名妓翻經,老僧釀酒,書生借箸,談兵介胄,登高作賦,羨他雅致偏增;屠門食素,狙儈論文,廝養盛服,領緣方外,束修懷刺,令我風流頓減。
新字:名妓翻経,老僧醸酒,書生借箸,談兵介胄,登高作賦,羨他雅致偏增;屠門食素,狙儈論文,廝養盛服,領縁方外,束修懐刺,令我風流頓減。
書き下し
名妓經を翻し、老僧酒を釀し、書生箸を借りて兵を談じ、介胄高きに登りて賦を作る、羨む他の雅致偏へに增すを。 屠門素を食らひ、狙儈文を論じ、廝養服を盛んにし、領緣方外、束修刺を懷にす、我をして風流頓に減ぜしむ。
現代語訳
名高い芸妓が経を読み、老いた僧が酒を醸し、書生が箸を借りて兵法を論じ、鎧兜の武人が高い所に登って賦を作る、こうした人々の雅な趣がひときわ増すのはうらやましいことです。一方、肉屋が菜食をし、仲買人が文章を論じ、下働きの者が立派な服を着飾り、世を離れたはずの者が俗縁を取り仕切り、謝礼を携え名刺を懐に入れて回る、こうしたことは私の風流心をたちまち冷めさせます。
解説
意外な取り合わせのうち、趣を増すものと興ざめなものを並べた一則です。前半は、華やかな芸妓が経を開き、僧が酒を造り、文人が軍略を語り、武人が詩を作るという、本来の立場と正反対のことをする姿です。借箸談兵は、前漢の張良が食事中に劉邦の箸を借りて天下の形勢を説いたという故事によります。これらは、本業の外にある教養や意外な一面として、人の魅力を増すと言います。後半は、肉屋の菜食、仲買人の文学談義、下働きの人の着飾りなど、うわべだけ取り繕った不似合いな姿を挙げ、風流が冷めると言います。狙儈は仲買人、廝養は下働き、束修は入門の謝礼、刺は名刺のことです。両者の違いは、内から自然ににじみ出る教養か、外から取り繕った体裁か、にあると読めます。意外な一面は、本物であってこそ人の魅力になるのでしょう。
この章句が説くこと
風流雅致品格対比諧謔
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