酔古堂剣掃 / 集綺・書生に寒酸の氣無し
武士無刀兵氣,書生無寒酸氣,女郎無脂粉氣,山人無煙霞氣,僧家無香火氣,換出一番世界,便為世上不可少之人。
新字:武士無刀兵気,書生無寒酸気,女郎無脂粉気,山人無煙霞気,僧家無香火気,換出一番世界,便為世上不可少之人。
書き下し
武士に刀兵の氣無く、書生に寒酸の氣無く、女郎に脂粉の氣無く、山人に煙霞の氣無く、僧家に香火の氣無ければ、 一番の世界を換へ出し、便ち世上に少くべからざるの人と爲る。
現代語訳
武人に刀や兵のなまぐさい気配がなく、書生に貧乏くさい気配がなく、女性におしろいの匂いがなく、山に住む隠者に霞や雲をまとったような気取りがなく、僧侶に線香臭い気配がなければ、世界がすっかり新しく生まれ変わり、それぞれがこの世になくてはならない人となります。
解説
それぞれの立場の人が、その立場にありがちな臭みを脱したとき、真に必要な人になると説いた一則です。武人の殺気、書生の貧乏くささ、女性の化粧の匂い、隠者の浮世離れした気取り、僧侶の抹香臭さは、それぞれの職分が身に染みついたものです。しかしそれが表に出すぎると、人は型にはまった存在になってしまいます。その臭みを抜いたところに、その人本来の人柄と魅力が現れ、世の中に欠かせない人になるというのです。今日で言えば、いかにも役人らしい、いかにも営業らしいといった職業臭さを脱することに通じます。仕事に熟達しながら、仕事の臭いをまとわない人こそ、一流と呼ばれるのではないでしょうか。
この章句が説くこと
品格修身処世職分自然
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