酔古堂剣掃 / 集倩・細かに沈水を燒く
佛經云:“細燒沈水,毋令見火。”此燒香三昧語。
新字:仏経云:“細焼沈水,毋令見火。”此焼香三昧語。
書き下し
佛經に云ふ、「細かに沈水を燒き、火を見しむること毋かれ」と。 此れ香を燒くの三昧の語なり。
現代語訳
仏典に「沈水香を細やかに焚き、火を表に出してはならない」とあります。これは香を焚くことの奥義を言い当てた言葉です。
解説
香の焚き方の極意を、仏典の言葉を引いて示した一則です。沈水は沈香のことで、水に沈むほど重い良質の香木であることからこう呼ばれます。毋令見火は、炎を立てて燃やしてはいけない、という意味です。香木は直接火をつけて燃やすと煙ばかり出て香りが損なわれるので、灰の中に埋めた炭の熱でじんわりと温め、香りだけを立たせるのが上手な焚き方とされます。原文の「雲」は「云」の意味で読みました。三昧はもと仏教で心を一つに集中した境地を言いますが、転じて、ある事の奥義や極致を意味します。火を見せずに香りだけを届けるという心得は、人との関わりにもたとえられます。熱意は内に秘め、相手に伝わるのは穏やかな香りだけ、というふるまいは、押しつけがましくない魅力のあり方を教えてくれます。
この章句が説くこと
香仏典風雅節度奥義
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