酔古堂剣掃 / 集倩・帳中の蘇合
帳中蘇合,全消雀尾之爐;檻外遊絲,半織龍須之席。
新字:帳中蘇合,全消雀尾之炉;檻外遊糸,半織竜須之席。
書き下し
帳中の蘇合、全く雀尾の爐に消え、 檻外の遊絲、半ば龍須の席を織る。
現代語訳
帳の中の蘇合香は、雀の尾のような柄の香炉の中ですっかり燃え尽き、手すりの外の陽炎のような糸は、龍鬚草で編んだ敷物を半ば織り上げるように漂っています。
解説
香と光のたゆたう室内を、細やかな道具立てで描いた艶麗な対句です。蘇合は西方から伝わった蘇合香という香料で、帳の中で焚かれていた香りの名残りを言います。雀尾之炉は、長い柄が鳥の尾のように伸びた柄香炉を指すと見られます。遊絲は春の日に空中を漂う蜘蛛の糸やかげろうのことで、それが日差しの中できらめき、龍須草で編んだ上等な敷物の上に模様を織りなしているように見える、という見立てです。香が燃え尽きた静けさと、光の中を漂う細い糸という、どちらも消えやすくはかないものが並んでいます。豪華な調度をただ並べるのではなく、そのうえに漂う気配をとらえるところに、この集らしい繊細な美意識が感じられます。部屋の香りや差し込む光に目を留めるだけで、日常の空間はずっと味わい深くなるものです。
この章句が説くこと
香室内艶麗風雅春
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