酔古堂剣掃 / 集倩・三年の字を滅せず
秋水岸移新釣舫,藕花洲拂舊荷裳。心深不滅三年字,病淺難銷寸步香。
新字:秋水岸移新釣舫,藕花洲払旧荷裳。心深不滅三年字,病浅難銷寸歩香。
書き下し
秋水の岸に新しき釣舫を移し、藕花の洲に舊き荷裳を拂ふ。 心深くして三年の字を滅せず、病淺くして寸步の香を銷し難し。
現代語訳
秋の水辺の岸に新しい釣り舟を移し、蓮の花咲く中州で、古い蓮の葉の衣の塵を払います。思いが深いので三年前の手紙の文字も消えることがなく、病は軽いのに、わずかな歩みのあとに残る香りは消しがたいのです。
解説
前の二句で水辺の隠れ住まいを、後の二句で消えない恋しさを詠んだ詩の一節です。荷裳は蓮の葉で作った衣で、『楚辞』離騒に芰荷を衣とし芙蓉を裳とするとあるように、清らかな人の装いを表します。三年字は『古詩十九首』の、遠くの人からの手紙を懐に入れておくと三年たっても字が消えない、という句を踏まえた表現です。深い思いがあるから、古い手紙の文字も心の中で色あせないというわけです。寸歩香は、ほんのわずかに歩いた跡に残る香りで、去った人の気配がいつまでも消えない切なさを言っています。病浅くしてとあるのは、恋わずらいとまではいかなくても、ふとした香りに心が揺れるさまと読めます。忘れられない人や言葉を心に持つことは、悲しみであると同時に支えでもあるのでしょう。
この章句が説くこと
恋情追憶詩風雅秋
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