酔古堂剣掃 / 集法・名高ければ稱ひ難し
恩重難酬,名高難稱。
新字:恩重難酬,名高難称。
書き下し
恩重ければ酬い難く、名高ければ稱ひ難し。
現代語訳
恩が重ければ報いるのが難しく、名声が高ければそれに見合うのが難しいものです。
解説
重すぎる恩と高すぎる名声は、どちらも人を苦しめると説いた八字の一則です。大きな恩を受けると、それに報いようとしても報いきれず、心の負担になります。高い名声を得ると、実際の自分がそれに見合わず、つねに無理を強いられます。称ふは、釣り合う、見合うという意味です。だから、身の丈を超えた恩や名声は、軽々しく受けないほうがよいという含みがあります。評価されることは嬉しいものですが、実力以上の評判は重荷になります。名声よりも実質を育てることを大切にしたいものです。
この章句が説くこと
恩義名声謙虚処世分限
関連する章句
-
『驢鞍橋』卷上一日或る俗来て曰く、承り及ふ故に是れ迄伺候仕る、一句示し給へ。師曰く、一人虚を伝ふれば、万人実と伝ふとて何者かおどけ者有りて、正三こそ名誉者なれ抔といへば、末々に聞き伝へ、扨は空をも翅り、光をも放つか抔と思ひ、正三見物に来り、変も無き老人なるを見て、皆興を醒さるゝ也。誠に我何の変もなき土禅門也。只死度くも無き間、何とぞして殺さるゝ事有りとも、何とも思はす、頸を指出して自由に死ぬ程に成りたさに修する也。されとも死は置いて餓鬼畜生を出でぬ也。是れを出度く思ふ心は、何とも思はず居る者には增さるへき歟。別に人に增りたる事無し。其方も聞かんと思はゝ一向のしろうとに成りめさるへし。彼者、秘し給ふと思ひ弥示し給へと云ふ。師曰く、我仏法の能き事を知らず、只我悪敷事を能く知りたる也。我友に成り、出入めされば、何時も我処に有る餓鬼畜生を懺悔して聞かせ申すべし。実に是の外によき事を知らず、ひげして云ふかと思ひめされんずな。無間に沈むほうぞ知らぬ也。
-
『酔古堂剣掃』集素・何ぞ必ずしも一の廉名を標さん廉は貪を懲らす所以なり、我果して貪らずんば、何ぞ必ずしも一の廉名を標して、以て貪夫の側目を來さん。 讓は爭ひを息むる所以なり、我果して爭はずんば、又た何ぞ必ずしも一の讓名を立てて、以て暴客の彎弓を致さん。
-
『呻吟語』内篇・修身・身を愛する者は赫赫の名を貴ばず蝸は涎を以て覓めらる、蟬は身を以て黏せらる、螢は光を以て獲らる。故に身を愛する者は、赫赫の名を貴ばず。
-
『墨子』修身彊からざれば智達せず、言信ならざる者は行果たさず。財に據りて以て人に分かつ能わざる者は、與に友とするに足らず。道を守ること篤からず、物に徧きこと博からず、是非を辯ずること察かならざる者は、與に遊ぶに足らず。本固からざる者は末必ず㡬うく、雄にして脩めざる者は其の後必ず惰る。源濁れば流れ清からず、行い信ならざれば名必ず耗る。名は徒らに生ぜず、而して譽は自ら長ぜず。功成り名遂ぐるも、名譽は虚假す可からず、之を身に反す者なり。言を務めて行を繁くすれば、辯なりと雖も必ず聴かれず。力多くして功を伐れば、勞すと雖も必ず圖られず。慧き者は心辯にして繁説せず、力多くして功を伐らず。此を以て名譽、天下に揚がる。言は多きを為すを務めずして智を為すを務め、文を為すを務めずして察を為すを務む。故に彼の智、察無く、身に在りて情、其の路に反する者なり。善、心に主たること無き者は留まらず、行、身に辯たること無き者は立たず。名は簡にして成る可からざるなり、譽は巧みにして立つ可からざるなり。君子は身を以て行を戴く者なり。利を思うこと尋ぎ、名を忘るること忽やかにして、以て天下に士為る可き者は、未だ嘗て有らざるなり。
-
史記 伯夷列伝「君子は世を没して名の称せられざるを疾む」。賈子曰く、「貪夫は財に徇じ、烈士は名に徇じ、夸者は権に死し、衆庶は生を馮む」と。「同明は相ひ照らし、同類は相ひ求む。雲は龍に従ひ、風は虎に従ふ。聖人作りて万物覩はる」。伯夷・叔斉は賢なりと雖も、夫子を得て名益々彰はる。顔淵は篤学なりと雖も、驥尾に附して行ひ益々顕はる。巌穴の士、趣舎此くの若き時有り、類名堙滅して称せられざるは、悲しいかな。閭巷の人、行ひを砥ぎ名を立てんと欲する者は、青雲の士に附くに非ずんば、悪んぞ能く後世に施かんや。
-
孫子・形篇勝を見ること衆人の知る所に過ぎざるは、善の善なる者に非ず。戦い勝ちて天下善と曰うも、善の善なる者に非ず。故に秋毫を挙ぐるも多力と為さず、日月を見るも明目と為さず、雷霆を聞くも聡耳と為さず。