酔古堂剣掃 / 集豪・別離の人の腸中の酸楚
每從白門歸,見江山逶迤,草木蒼郁。人常言佳,我覺是別離人腸中一段酸楚氣耳。
新字:毎従白門帰,見江山逶迤,草木蒼郁。人常言佳,我覚是別離人腸中一段酸楚気耳。
書き下し
每に白門より歸り、江山の逶迤として、草木の蒼郁たるを見る。人常に佳なりと言ふも、我は覺ゆ、是れ別離の人の腸中一段の酸楚の氣なるのみと。
現代語訳
白門(金陵、今の南京)から帰るたびに、川と山がうねうねと続き、草木が青々と茂っているのを目にします。人はいつもよい景色だと言いますが、私にはそれが、別れを抱えた人の腸の中にある、ひとしきりの切ない気配に感じられます。
解説
同じ景色でも、見る人の心によってまったく違って見えることを語った一則です。白門は金陵、今の南京の古い呼び名で、別れの場として詩によく詠まれました。逶迤はうねうねと続くさま、蒼郁は草木が深く茂るさまです。世の人が美しいと言う江山も、別れを経た著者には、胸の奥の酸っぱく苦しい思いの形に見えるのです。景色は心の鏡だと言えるでしょう。つらい時期に見た風景が、後になっても特別な色を帯びて思い出されることは、誰にでもあるのではないでしょうか。
この章句が説くこと
別離感性自然郷愁心情
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集情・半聲の春鳥偏へに愁人を喚ぶ一片の秋山は、能く病容を療し、半聲の春鳥は、偏へに愁人を喚ぶ。
-
『酔古堂剣掃』集峭・子と別れて思心徘徊す秋露は珠の如く、秋月は圭の如し。明月白露、光陰往來す。子と別れて、思心徘徊す。
-
『酔古堂剣掃』集情・君を南浦に送る春草は碧色、春水は綠波、君を南浦に送る、傷むこと之を如何せん。
-
『酔古堂剣掃』集景・神情爽やかに滌はる一抹の萬家、煙樹色に橫たはり、翠樹流れんと欲し、淺深間ま布き、心目競ひ觀て、神情爽やかに滌はる。
-
『酔古堂剣掃』集倩・遊子衣上の塵村花路柳は、遊子衣上の塵、 山霧江雲は、行李擔頭の色。
-
『酔古堂剣掃』集醒・清寧に遇へば眼前の氣象自ら別なり人溷擾に當れば、則ち心中の境界何ぞ堪へん。人清寧に遇へば、則ち眼前の氣象自ら別なり。