酔古堂剣掃 / 集豪・靈文奇字を隱し難し
深山窮谷,能老經濟才猷;絕壑斷崖,難隱靈文奇字。
新字:深山窮谷,能老経済才猷;絶壑断崖,難隠霊文奇字。
書き下し
深山窮谷は、能く經濟の才猷を老いしめ、 絕壑斷崖は、靈文奇字を隱し難し。
現代語訳
奥深い山や行き止まりの谷は、世を治めるすぐれた才能と計略を、むなしく老いさせてしまうことがあります。しかし切り立った谷や断崖も、霊妙な文章やすぐれた文字を隠しきることはできません。
解説
隠れた才能の運命について、二つの面から述べた一則です。前の句の経済は、今日の経済の意味ではなく、経世済民、すなわち世を治め民を救うことを言います。才猷は、才能とはかりごとのことです。世を治める才能を持った人も、深い山に埋もれていれば、用いられないまま老いてしまうと嘆きます。一方、後の句では、断崖絶壁の奥深くにあっても、すぐれた文章や文字は隠れていられないと言います。優れた詩文は、たとえ山奥で書かれても、いずれ世に知られるということです。才能を政治に生かす道は閉ざされても、言葉に託した志は残る。集豪の序で述べた、一言一字で不平を写すという考えにも通じる句です。
この章句が説くこと
才能不遇文章隠逸経世
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集豪・英雄は漁樵耕牧に混ず旨言は顯れず、經濟は多く之を工瞽芻蕘に托す。高蹤は落ちず、英雄は常に之を漁樵耕牧に混ず。
-
『酔古堂剣掃』集豪・糟邱を假りて霸業と爲す英雄未だ轉ぜざるの雄圖は、糟邱を假りて霸業と爲し、 風流盡きざるの餘韻は、花谷に托して深山と爲す。
-
『酔古堂剣掃』集靈・才有りて建用する所無し快捷の才有りて、建用する所無ければ、勢ひ必ず憤激の處に乘じて、一たび雄風を逞しうし、縱橫の論有りて、發明する所無ければ、勢ひ必ず簧鼓の場に乘じて、一たび餘力を恣にす。
-
『酔古堂剣掃』集靈・得ざれば則ち名山に藏す錦を心に藏し、繡を口に藏し、珠玉を咳唾に藏し、珍奇を筆墨に藏す。時を得れば則ち冊府に藏し、得ざれば則ち名山に藏す。
-
『酔古堂剣掃』集豪・些かの真影を剩す車塵馬足の下、醜形を露出し、 深山窮谷の中、些かの真影を剩す。
-
『酔古堂剣掃』集豪・豪の膽、豪の才、豪の語今世の矩視尺步の輩と、夫の守株待兔の流とは、是れ束縛せずして阱する者なり。 宇宙寥寥として、一豪者を求むるも、安んぞ得んや。 家徒だ四壁のみにして、一擲千金、豪の膽なり。興酣にして筆を落とし、墨を潑ぐこと千言、豪の才なり。我が才必ず用ゐられん、黃金復た來らん、豪の語なり。 夫れ豪既に得べからず、而して後世倜儻の士、或いは一言一字を以て其の不平を寫す、又安んぞ沈沈たる故紙と同じく銷沒と爲らんや。 集豪第十。