酔古堂剣掃 / 集綺・三更の山月に老猿啼く
無端淚下,三更山月老猿啼;驀地嬌來,一月泥香新燕語。
新字:無端涙下,三更山月老猿啼;驀地嬌来,一月泥香新燕語。
書き下し
端無くして淚下る、三更の山月に老猿啼き、 驀地に嬌來る、一月の泥香に新燕語る。
現代語訳
わけもなく涙がこぼれるのは、真夜中の山の月の下で、年老いた猿が啼くときです。にわかにかわいらしさが込み上げてくるのは、一月の香る泥の中で、初めて来た燕がさえずるときです。
解説
悲しみと愛らしさという、ふいに心に湧いてくる二つの感情を、自然の音で描いた一則です。前の句は、真夜中の山で月の下に老猿が啼く声を聞くと、理由もなく涙がこぼれると言います。猿の声は古くから哀しみを誘うものとして詩に詠まれ、長江の三峡では猿の啼き声に旅人が涙を落とすと歌われました。後の句は、春の香る泥の中で、やって来たばかりの燕がさえずるのを聞くと、急に愛らしい気持ちが込み上げてくると言います。燕は泥をくわえて巣を作ります。端無くと驀地という言葉が、心の動きの唐突さを表しています。感情はしばしば理由より先にやって来るものです。
この章句が説くこと
情猿声燕自然感受
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