酔古堂剣掃 / 集綺・蟬聲の斷ゆる處
鳥語聽其澀時,憐嬌情之未囀;蟬聲聽已斷處,愁孤節之漸消。
新字:鳥語聴其澀時,憐嬌情之未囀;蝉声聴已断処,愁孤節之漸消。
書き下し
鳥語は其の澀る時を聽きて、嬌情の未だ囀らざるを憐れみ、 蟬聲は已に斷ゆる處を聽きて、孤節の漸く消ゆるを愁ふ。
現代語訳
鳥の声は、まだぎこちなくつかえている時に聴いて、そのかわいらしい思いがまだ十分にさえずれずにいるのをいとおしみます。蝉の声は、もう途切れたところで聴いて、その孤高の節操がしだいに消えていくのを悲しみます。
解説
鳥の声と蝉の声を、始まりと終わりの二つの時に聴き分けた一則です。前の句は春先の若い鳥で、まださえずりが上手でなく、声がつかえる初々しさに、うまく言葉にできない幼い思いを重ねています。後の句は秋の蝉で、鳴き声が途切れたところに、露だけを飲んで清く生きると言われた蝉の孤高の節操が消えていく哀れを感じ取っています。蝉は古くから高潔の象徴として詩に詠まれてきました。満ち足りた盛りの声ではなく、まだ始まらない声と、すでに終わった声とに心を寄せるところに、繊細な感受性があります。物事の盛りだけでなく、その前と後にも目を向けると、見えてくる情があるものです。
この章句が説くこと
情趣風雅自然季節節操
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集韻・雨過ぎて蟬聲來たる雨過ぎて蟬聲來たり、花氣人をして醉はしむ。
-
『酔古堂剣掃』集情・鳥は紅雨に沾ふ蝶は香風に憩ひて、尚ほ芳夢多く、鳥は紅雨に沾ひて、嬌啼に任へず。
-
『酔古堂剣掃』集韻・病鶴の清影頗る嘉し詩は瘦せて門に到りて鄰し、病鶴の清影頗る嘉し。書は貧しくして座を經て並び、寒蟬の雄風頓挫す。
-
『酔古堂剣掃』集景・杜鵑啼き斷つ落花の風千竿の修竹、周遭す半畝の方塘。 一片の白雲、遮蔽す五株の垂柳。 山館秋深く、野鶴唳き殘す清夜の月。 江園春暮れ、杜鵑啼き斷つ落花の風。
-
『酔古堂剣掃』集情・半聲の春鳥偏へに愁人を喚ぶ一片の秋山は、能く病容を療し、半聲の春鳥は、偏へに愁人を喚ぶ。
-
『酔古堂剣掃』集情・蟲先づ覺る薄霧幾層か月を推して出だし、好山無數江を渡りて來る;輪は將に秋に動かんとして蟲先づ覺り、更の深きに換へ得て鳥越いよ催す。