酔古堂剣掃 / 集綺・此の一境界
畫屋曲房,擁爐列坐;鞭車行酒,分隊征歌;一笑千金,樗蒲百萬;名妓持箋,玉兒捧硯;淋漓揮灑,水月流虹;我醉欲眠,鼠奔鳥竄;羅襦輕解,鼻息如雷。此一境界,亦足賞心。
新字:画屋曲房,擁炉列坐;鞭車行酒,分隊征歌;一笑千金,樗蒲百万;名妓持箋,玉児捧硯;淋漓揮灑,水月流虹;我酔欲眠,鼠奔鳥竄;羅襦軽解,鼻息如雷。此一境界,亦足賞心。
書き下し
畫屋曲房、爐を擁して列坐し、 車を鞭ちて酒を行ひ、隊を分ちて歌を征す。 一笑千金、樗蒲百萬。 名妓箋を持し、玉兒硯を捧ぐ。 淋漓として揮灑すれば、水月流虹。 我醉ひて眠らんと欲すれば、鼠奔り鳥竄る。 羅襦輕く解けて、鼻息雷の如し。 此の一境界も、亦た心を賞するに足る。
現代語訳
彩色した家の奥まった部屋で、炉を囲んで並んで座り、車を走らせて酒を運び、組に分かれて歌を競います。一度の笑顔に千金を投じ、博打には百万を賭けます。名妓が詩箋を持ち、美しい子が硯を捧げます。思うままに筆を振るえば、水に映る月や流れる虹のような文字が現れます。私が酔って眠りたくなると、人々は鼠が走り鳥が逃げるように散っていきます。薄絹の上着をゆるめ、雷のようないびきをかきます。この一つの境地も、また心を楽しませるに足るものです。
解説
豪勢な宴の始まりから酔い潰れて眠るまでを、短い句を連ねて一気に描いた一則です。一笑千金は、美人の笑顔のために大金を惜しまないこと、樗蒲は古代の博打の一種です。名妓や美しい子が詩箋と硯を捧げ、主人は酔いに任せて筆を振るいます。我醉欲眠は、陶淵明が客に「我酔ひて眠らんと欲す、卿去るべし」と言った話を思わせ、客たちが一斉に退散する様子を鼠や鳥にたとえた滑稽さがあります。最後は着物をゆるめて大いびきという、なんとも気ままな結末です。放蕩をそのまま勧めるのではなく、こうした奔放な一夜も、人生の一つの境地として味わう価値があると言っているのでしょう。
この章句が説くこと
宴豪放酒風流境地
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