酔古堂剣掃 / 集綺・魄を冰壺に濯ふ
夜來月下臥醒,花影零亂,滿人襟袖,疑如濯魄於冰壺。
新字:夜来月下臥醒,花影零乱,満人襟袖,疑如濯魄於冰壺。
書き下し
夜來月下に臥して醒むれば、花影零亂として、人の襟袖に滿つ、 疑ふらくは魄を冰壺に濯ふが如し。
現代語訳
夜、月の下で横になっていて目を覚ますと、花の影が乱れ散って、襟や袖いっぱいに映っています。まるで魂を氷の壺で洗ったかのように思われます。
解説
月夜にうたた寝から覚めたときの、清らかな感覚を描いた一則です。月の光に照らされた花の影が、風に揺れて乱れながら、寝ていた人の襟や袖にいっぱいに映っています。その冷たく澄んだ光の中にいる心地を、魂を氷の壺で洗い清めたようだと表現しています。冰壺は、氷を入れた玉の壺のことで、唐の王昌齢の詩に「一片の冰心、玉壺に在り」とあるように、清らかで汚れのない心のたとえとして用いられます。月と花と人とが一つに溶け合い、心の汚れまで洗い流されるような境地です。忙しさで心が曇ったとき、夜の静けさの中で月の光を浴びるだけでも、気持ちが澄んでいくことがあるものです。
この章句が説くこと
月夜清浄風雅閑適花影
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集景・神骨俱に仙なり小窗に偃臥すれば、月影床に到り、或いは梧桐に逗留し、或いは楊柳に搖亂す。 翠華被を撲ち、神骨俱に仙なり。 竹裏より流れ來るに及びては、蒼雲より吐き出づるが如し。
-
『酔古堂剣掃』集倩・香魂夜發す花影零亂し、香魂夜發す、囅然として喜ぶ。 燭既に盡くれども、寐ぬる能はざるなり。
-
『酔古堂剣掃』集景・松端より月を看る影を寒窗に抱き、霜夜寐ねられず、松竹の下に徘徊す。 四山月白く露墜ち、冰柯相與にす、李白の靜夜思を詠ずれば、便ち冷然たる寒風を覺ゆ。 寢に就きて復た蒲團に坐し、松端より月を看、茗を煮て談を佐け、此の夜の樂しみを竟ふ。
-
『酔古堂剣掃』集靈・此の身水晶宮裏に在るが如し秋月天に當り、纖雲都て淨し、空闊なる去處に露坐すれば、清光冷やかに浸し、此の身水晶宮裏に在るが如く、人をして心膽澄澈ならしむ。
-
『酔古堂剣掃』集素・燈下に花を玩び簾內に月を看る燈下に花を玩び、簾內に月を看、雨後に景を觀、醉裏に詩を題し、夢中に書聲を聞く、皆別趣有り。
-
『酔古堂剣掃』集豪・夜深くして花は睡る雲破れて月は窺ふ花の好き處、夜深くして花は睡る月明の中。