酔古堂剣掃 / 集綺・人は樓中に在りや否や
春透水波明,寒峭花枝瘦。極目煙中百尺樓,人在樓中否?
新字:春透水波明,寒峭花枝痩。極目煙中百尺楼,人在楼中否?
書き下し
春透りて水波明らかに、寒峭しくして花枝瘦す。 目を極む煙中百尺の樓、人は樓中に在りや否や。
現代語訳
春の気配が行きわたって水の波は明るく輝き、寒さがまだ厳しくて花の枝は細くやせています。靄の中にそびえる百尺の楼閣を目の限り見つめますが、あの人はその楼閣の中にいるのでしょうか、いないのでしょうか。
解説
早春の景色の中で、遠くの楼閣にいるはずの人を思う一則です。前半は、春の光で水面は明るいのに、寒さが残って花の枝はまだ細いという、季節の変わり目の景色です。明るさと寒さが同居する早春の空気は、期待と不安の入り混じる恋心にも重なります。後半では、靄に包まれた高い楼閣を目の届く限り見つめ、あの人は中にいるのかと問いかけます。答えは返ってこず、問いのまま終わるところに余韻があります。詞の一節のような調子の句で、はっきりと言わずに思いの深さを伝えています。会いたい人を遠くから思う気持ちは、いつの時代も変わりません。控えめな言葉の中の思いを味わいたい句です。
この章句が説くこと
恋慕早春風景情余韻
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