酔古堂剣掃 / 集綺・妝樓正に書樓に對す
妝樓正對書樓,隔池有影;繡戶相通綺戶,望眼多情。
新字:妝楼正対書楼,隔池有影;繍戸相通綺戸,望眼多情。
書き下し
妝樓正に書樓に對し、池を隔てて影有り。 繡戶綺戶に相通じ、望眼情多し。
現代語訳
化粧をする女性の楼閣は、ちょうど書斎の楼閣と向かい合っていて、池を隔てて互いの影が映っています。刺繍を施した戸口と、あや絹で飾った窓とが通じ合っていて、見つめる眼差しには思いがあふれています。
解説
向かい合う二つの楼閣を通して、ひそやかな恋心を描いた一則です。妝樓は女性が化粧をする部屋のある楼閣、書樓は男性が書を読む楼閣です。二つの建物は池を隔てて向かい合い、水面に互いの影が映っています。直接には会わなくとも、影が重なることで二人の心の近さが暗示されます。後の句の繡戶と綺戶は、どちらも美しく飾られた戸口や窓で、それが通じ合っているという言い方に、行き来する思いが込められています。望眼多情は、遠くを見つめる眼差しに情がこもっていることです。言葉を交わさずとも、眼差しだけで伝わる思いがあります。控えめで奥ゆかしい情景として味わいたい句です。
この章句が説くこと
恋慕情楼閣風雅眼差し
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集景・妝臺の明月猶ほ懸る南湖水落ちて、妝臺の明月猶ほ懸り、西郭煙銷えて、繡榻の彩雲散ぜず。
-
『酔古堂剣掃』集綺・人は樓中に在りや否や春透りて水波明らかに、寒峭しくして花枝瘦す。 目を極む煙中百尺の樓、人は樓中に在りや否や。
-
『酔古堂剣掃』集綺・紅妝翠袖の間に在るが如し朱樓綠幕、笑語は別座の春を勾き、越舞吳歌、巧舌は蓮花の艷を吐く。 此の身怨臉愁眉、紅妝翠袖の間に在るが如く、遠きが若く近きが若く、之が爲に黯然たり。 嗟乎、又何ぞ怪しまんや、身其の際に當る者の、玉床の翠を擁して心迷ひ、伶人の奏を聽きて涕を隕すを。 集綺第九。
-
『酔古堂剣掃』集綺・風流は墜髻を誇る流蘇の帳の底、之を披けば夜月人を窺ひ、 玉鏡臺の前、之を諷すれば朝煙樹に縈る。 風流は墜髻を誇り、時世は啼眉を聞く。
-
『酔古堂剣掃』集情・遠き處の簾攏半夜の燈靜中の樓閣は春雨に深く、遠き處の簾攏は半夜の燈。
-
『酔古堂剣掃』集綺・紅顏薄命明月樓に當るも、高眠して避くるが如し、惜しいかな夜光の暗投。 芳樹窗に交はるも、把玩するに主無し、嗟矣紅顏の薄命。