酔古堂剣掃 / 集韻・此くの如き相逢は知己に逾ゆ
登山遇厲瘴,放艇遇腥風,抹竹遇繆絲,修花遇酲霧,歡場遇害馬,吟席遇傖夫,若斯不遇,甚於泥塗。偶集逢好花,踏歌逢明月,席地逢軟草,攀磴逢疏藤,展卷逢靜雲,戰茗逢新雨,如此相逢,逾於知己。
新字:登山遇厲瘴,放艇遇腥風,抹竹遇繆糸,修花遇酲霧,歓場遇害馬,吟席遇傖夫,若斯不遇,甚於泥塗。偶集逢好花,踏歌逢明月,席地逢軟草,攀磴逢疏藤,展巻逢静雲,戦茗逢新雨,如此相逢,逾於知己。
書き下し
山に登りて厲瘴に遇ひ、艇を放ちて腥風に遇ひ、竹を抹して繆絲に遇ひ、花を修めて酲霧に遇ひ、歡場に害馬に遇ひ、吟席に傖夫に遇ふ。斯くの若き不遇は、泥塗よりも甚だし。偶集して好花に逢ひ、踏歌して明月に逢ひ、席地して軟草に逢ひ、磴を攀ぢて疏藤に逢ひ、卷を展べて靜雲に逢ひ、茗を戰はせて新雨に逢ふ。此くの如き相逢は、知己に逾ゆ。
現代語訳
山に登って毒気に出くわし、舟を出して生臭い風に出くわし、竹を描こうとしてもつれた糸のような乱れに出くわし、花の手入れをしていて重苦しい霧に出くわし、楽しい宴の場で和を乱す者に出くわし、詩を詠む席で野暮な男に出くわす。こうした不運な出会いは、泥にまみれるよりもひどいものです。たまたま集まって美しい花に逢い、足を踏み鳴らして歌って明月に逢い、地べたに座ってやわらかな草に逢い、石段をよじ登ってまばらな藤に逢い、書物を開いて静かな雲に逢い、茶を競って新しい雨に逢う。このような巡り合わせは、心の友に逢うよりもうれしいものです。
解説
興ざめな出会いと、うれしい出会いとを六つずつ並べた一則です。厲瘴は山の毒気、腥風は生臭い風、傖夫は野暮な男を言います。害馬は『荘子』に出る言葉で、群れを乱す馬、転じて場の和を乱す者です。こうした巡り合わせは泥にまみれるよりつらいと言います。一方、花や月、柔らかな草、藤、雲、雨と、ささやかな自然に出会えることは、知己に会うよりうれしいというのです。茗戦は茶の品評を競う遊びです。何に出会うかは選べなくても、何を喜ぶかは自分で選べます。小さな好ましい出会いに気づける感性を磨きたいものです。
この章句が説くこと
風雅感性交友自然閑適
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集倩・賞花には豪友を結ぶ花を賞するには須らく豪友を結ぶべく、妓を觀るには須らく淡友を結ぶべく、山に登るには須らく逸友を結ぶべく、舟を泛ぶるには須らく曠友を結ぶべく、月に對するには須らく冷友を結ぶべく、雪を待つには須らく艷友を結ぶべく、酒を捉るには須らく韻友を結ぶべし。
-
『酔古堂剣掃』集倩・良友相聚まる楊花珠簾に飛び入れば、巾を脫ぎて硯を洗ふ。 詩草吟じて錦字を成せば、竹を燒きて茶を煎る。 良友相聚まり、或いは衣を解きて盤礴し、或いは韻を分かちて險を角ふ。 之を頃くして青山を貌し出だし、麗句を吟じ成せば、旁らより之を品題す、大いに是れ開心の事なり。
-
『酔古堂剣掃』集韻・徑を掃ひて清風を迎ふ徑を掃ひて清風を迎へ、臺に登りて明月を邀ふ。琴觴の餘、間ふるに歌詠を以てし、止だ鳥語花香のみ、吾が几榻に來たるを許すのみ。
-
『酔古堂剣掃』集靈・勝負の機早く決す竹裏に樓に登り、遠く韻士を窺ひ、其の名理を坐上に談ずるを聆けば、人我の相忘るべし。花間に石を掃ひ、時に棋師を候ひ、其の危劫に枰間に應ずるを觀れば、勝負の機早く決す。
-
『酔古堂剣掃』集韻・臂を把り膝を促す或いは夕陽の籬落、或いは明月の簾櫳、或いは雨夜に榻を聯ね、或いは竹下に觴を傳へ、或いは青山戶に當たり、或いは白雲庭とす可し。斯の時に於いてや、臂を把り膝を促し、相知ること幾人ぞ、謔語雄談、心を千古に快くす。
-
『酔古堂剣掃』集景・愁樂交も集まる雲晴れて叆叆、石楚流滋、狂飆忽ち卷き、珠雨淋漓たり。 黃昏孤燈明滅し、山房清曠にして、意自ら悠然たり。 夜半松濤颶に驚き、蕉園瑯を鳴らし、窾坎の聲、疏密間ま發し、愁樂交も集まり、幽懷を寫すに足る。