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酔古堂剣掃 / 集景・兩腋に風を生ずるを覺ゆ

盛暑持蒲,榻鋪竹下,臥讀《騷》經,樹影篩風,濃陰蔽日,叢竹蟬聲,遠遠相續,蘧然入夢,醒來命取榐櫛發,汲石澗流泉,烹雲芽一啜,覺兩腋生風。徐步草玄亭,芰荷出水,風送清香,魚戲冷泉,淩波跳擲。因涉東臯之上,四望溪山罨畫,平野蒼翠。激氣發於林瀑,好風送之水涯,手揮麈尾,清興酒然。不待法雨涼雪,使人火宅之念都冷。

新字:盛暑持蒲,榻鋪竹下,臥読《騷》経,樹影篩風,濃陰蔽日,叢竹蝉声,遠遠相続,蘧然入夢,醒来命取榐櫛発,汲石澗流泉,烹雲芽一啜,覚両腋生風。徐歩草玄亭,芰荷出水,風送清香,魚戯冷泉,淩波跳擲。因渉東皋之上,四望渓山罨画,平野蒼翠。激気発於林瀑,好風送之水涯,手揮麈尾,清興酒然。不待法雨涼雪,使人火宅之念都冷。

書き下し

盛暑に蒲を持ち、榻を竹下に鋪き、臥して騷經を讀めば、樹影風を篩ひ、濃陰日を蔽ひ、叢竹の蟬聲、遠遠として相續き、蘧然として夢に入る。 醒め來りて命じて榐を取りて發を櫛らしめ、石澗の流泉を汲み、雲芽を烹て一啜すれば、兩腋に風を生ずるを覺ゆ。 徐ろに草玄亭に步めば、芰荷水を出で、風清香を送り、魚冷泉に戲れ、波を淩ぎて跳擲す。 因りて東臯の上に涉り、四もに溪山の罨畫、平野の蒼翠を望む。 激氣林瀑より發し、好風之を水涯に送り、手に麈尾を揮へば、清興酒然たり。 法雨涼雪を待たずして、人をして火宅の念都て冷やかならしむ。

現代語訳

真夏の暑さの中、蒲の扇を手に竹の下へ寝台を据え、横になって離騒を読んでいると、木の影が風をふるいにかけ、濃い木陰が日差しを遮り、竹やぶの蝉の声が遠く近く続いて、いつのまにか夢に入ります。目が覚めると、櫛を持ってこさせて髪をくしけずり、岩間の谷川の流れを汲んで、雲芽の茶を煮て一口すすれば、両脇から風が生じるような爽快さを覚えます。ゆっくりと草玄亭まで歩いていくと、菱や蓮が水面から顔を出し、風が清らかな香りを運び、魚が冷たい泉にたわむれて、波をしのいで跳ね上がります。そこで東の丘の上に登り、四方を見渡すと、谷と山は色鮮やかな絵のようで、平野は青々と茂っています。林の滝からは激しい気が立ちのぼり、よい風がそれを水辺へと運び、手に払子を振れば、清らかな興趣がさっぱりと湧いてきます。仏の説く法の雨や涼しい雪を待つまでもなく、人の心から燃えさかる家のような煩悩の思いを、すっかり冷ましてくれるのです。

解説

真夏の一日を、昼寝、茶、散策、眺望と追いかけながら、涼しさを重ねていく一則です。騷經は屈原の離騒を指し、夏の午後に楚辞を読むのは文人らしい趣味です。両腋に風を生ずは、唐の盧仝が茶の歌で、七碗を飲めば両脇から清風が生じると詠んだのを踏まえています。雲芽は茶の若芽のことです。草玄亭は、漢の揚雄が太玄経を著した亭にちなむ書斎の名、東臯は陶淵明が東の丘に登って声を伸ばすと詠んだ場所です。最後の火宅は、法華経で煩悩に満ちた世界を燃える家にたとえた言葉です。底本の酒然は、灑然の誤りとみられます。暑さを嘆くより、木陰や茶や水辺の風を一つずつ味わえば、夏もまた楽しいのです。

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