酔古堂剣掃 / 集景・江清くして月人に近し
野曠天低樹,江清月近人。
書き下し
野曠くして天樹に低れ、江清くして月人に近し。
現代語訳
野原が広々としているので、空が木々よりも低く垂れているように見えます。川が澄んでいるので、水に映った月が人のすぐ近くにあるように見えます。
解説
唐の孟浩然の五言絶句、宿建德江の後半二句をそのまま採った一則です。舟を岸につないで一夜を過ごす旅人が、夕暮れの景色を眺める場面です。前の句は、どこまでも広い野原では、遠くの空が木々の梢より低く見えるという遠近の感覚を描いています。後の句は、澄んだ川面に月が映り、その月が人のすぐそばにあるように感じられるという、近さの感覚です。遠いはずの天が低く、遠いはずの月が近いという逆転が、旅人の孤独と慰めを同時に伝えます。遠く離れた旅先で、月や星がかえって近くに感じられるのは、見知らぬ土地で身近なものを求める心の働きなのかもしれません。
この章句が説くこと
自然風雅旅月唐詩
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集素・明月を天衢に步む明月を天衢に步み、錦雲を江閣に覽る。
-
『酔古堂剣掃』集倩・月は霜よりも白し蓬窗夜啟けば、月は霜よりも白く、漁火沙汀に、寒星聚まるが如し。 客の楚を作すに於けるを忘卻し、但だ煙水の人を留むるを欣ぶ。
-
『酔古堂剣掃』集景・一江の春水行舟を送る細草微風、兩岸の晚山短桌を迎へ、垂楊殘月、一江の春水行舟を送る。
-
『酔古堂剣掃』集倩・窗を推して河漢を仰ぐ香を焚きて樹を看れば、人事都て盡き、簾を隔てて花落ち、松梢に月上り、鐘聲忽ち度る。 窗を推して仰ぎ視れば、河漢に雲流れ、大いに晝時に勝る。 心を洗ひ慮を滌ひて意を爻象の表に得る者有るに非ずんば、獨り此の語に契ふべからず。
-
『酔古堂剣掃』集景・松端より月を看る影を寒窗に抱き、霜夜寐ねられず、松竹の下に徘徊す。 四山月白く露墜ち、冰柯相與にす、李白の靜夜思を詠ずれば、便ち冷然たる寒風を覺ゆ。 寢に就きて復た蒲團に坐し、松端より月を看、茗を煮て談を佐け、此の夜の樂しみを竟ふ。
-
『酔古堂剣掃』集景・霽色一新す山を雨後に看れば、霽色一新し、便ち青山の倍ます秀づるを覺ゆ。 月を江中に玩べば、波光千頃、頓に明月をして輝きを增さしむ。