酔古堂剣掃 / 集景・心を松竹に寄せ樂しみを魚鳥に取る
蔭映巖流之際,偃息琴書之側,寄心松竹,取樂魚鳥,則淡泊之願,於是畢矣。
新字:蔭映巖流之際,偃息琴書之側,寄心松竹,取楽魚鳥,則淡泊之願,於是畢矣。
書き下し
巖流の際に蔭映し、琴書の側に偃息し、心を松竹に寄せ、樂しみを魚鳥に取れば、則ち淡泊の願ひ、是に於て畢る。
現代語訳
岩の間を流れる水のほとりに木陰を求め、琴と書物のかたわらで横になって休み、松や竹に心を寄せ、魚や鳥から楽しみを得られれば、あっさりとした暮らしを願う望みは、これで満たされます。
解説
淡泊な暮らしの願いがかなう条件を、四つの句で数え上げた一則です。巖流は岩の間を流れる水、蔭映は木陰が水に映るような涼しい場所を言います。偃息は横になって休むことで、琴書の側という言葉から、読書や演奏に疲れたらそのまま休むという気ままな時間が浮かびます。心を寄せる相手は松竹、楽しみを得る相手は魚鳥と、いずれも人ではなく自然の生き物です。淡泊は、欲が少なく、あっさりとしていることです。願いが畢ると言い切るところに、これ以上何も求めないという満足感が表れています。望みを大きく広げるより、満たされる条件を小さく具体的に決めておくほうが、心は穏やかでいられるのでしょう。
この章句が説くこと
知足自然閑適淡泊読書
関連する章句
-
『呻吟語』内篇・修身・乾燥と脂韋恬淡老成の人は又た俯仰する能はず、一世便ち乾燥を覺ゆ。圓和甘潤の人は又た把持する能はず、一身便ち脂韋を覺ゆ。
-
『呻吟語』内篇・談道・羶に依り腥に附く底の人冷淡の中に無限の受用の處有り。都て炎熱に戀戀とし、死に抵るまで悟らず。既に悟るも回頭するを知らず、既に回頭するも卻って又た羨慕す。此れは是れ一種の羶に依り腥に附く底の人なり。切に與に真の滋味を談ずる莫かれ。
-
『呻吟語』内篇・談道・淡に非ざれば道は入らず道は淡に非ざれば入らず、靜に非ざれば進まず、冷に非ざれば凝らず。
-
『囲炉夜話』第百四十八則・心を養ふは須らく淡泊なるべし身を守るは必ず嚴謹なれ、凡そ以て吾が身を戕ふに足る者は、宜しく之を戒むべし。 心を養ふは須らく淡泊なるべし、凡そ以て吾が心を累はすに足る者は、爲すこと勿れ。
-
『酔古堂剣掃』集靈・志は高華、趣は淡泊志は高華なるを要し、趣は淡泊なるを要す。
-
『呻吟語』内篇・談道・並び育して情有らず山峙ち川流れ、鳥啼き花落ち、風清く月白きは、自ら是れ各おの其の天に適ひ、各おの其の分を得たるなり。我も亦た然り、彼此干涉無し。才かに繫戀の心を生ずれば、便ち是れ歆羨なり、便ち沾著有り。主人は淡くして世好無く、世と相忘るるのみ。惟だ並び育して情有らず、故に並び育して相害せず。