酔古堂剣掃 / 集景・馬蹄の何物為るかを知らず
垂柳小橋,紙窗竹屋,焚香燕坐,手握道書一卷。客來則尋常茶具,本色清言,日暮乃歸,不知馬蹄為何物。
新字:垂柳小橋,紙窗竹屋,焚香燕坐,手握道書一巻。客来則尋常茶具,本色清言,日暮乃帰,不知馬蹄為何物。
書き下し
垂柳小橋、紙窗竹屋、香を焚きて燕坐し、手に道書一卷を握る。 客來れば則ち尋常の茶具、本色の清言、日暮れて乃ち歸り、馬蹄の何物為るかを知らず。
現代語訳
垂れた柳と小さな橋、紙張りの窓に竹の家。香を焚いてくつろいで座り、手には道家の書物を一巻握っています。客が来れば、ふだんどおりの茶道具で、飾らない清らかな話をし、日が暮れれば客は帰っていきます。馬のひづめの音など、何のことやら知らない暮らしです。
解説
官界の忙しさと無縁の、隠者の穏やかな一日を描いた一則です。燕坐はくつろいで座ること、道書は老荘や神仙の教えを記した書物です。客が来ても特別なもてなしはせず、尋常の茶具と本色の清言で迎えます。本色は、飾らない本来の持ち味という意味です。馬蹄の何物為るかを知らずという結びは、馬に乗って役所に通ったり、権門を訪ね回ったりする暮らしを知らない、ということを言っています。華やかな世界を知らないことを、欠けたものではなく誇りとしているのです。仕事や付き合いに追われる毎日でも、ときには予定を空けて、客とふだんどおりのお茶を飲むだけの日を作ってみたいものです。
この章句が説くこと
隠逸閑適交友清貧茶
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