酔古堂剣掃 / 集景・短笛腔無く之を吹きて休まず
閑步畎畝間,垂柳飄風,新秧翻浪;耕夫荷農器,長歌相應;牧童稚子,倒騎牛背,短笛無腔,吹之不休,大有野趣。
新字:閑歩畎畝間,垂柳飄風,新秧翻浪;耕夫荷農器,長歌相応;牧童稚子,倒騎牛背,短笛無腔,吹之不休,大有野趣。
書き下し
畎畝の間に閑步すれば、垂柳風に飄り、新秧浪を翻す。 耕夫農器を荷ひ、長歌相應ず。 牧童稚子、倒に牛背に騎り、短笛腔無く、之を吹きて休まず、大いに野趣有り。
現代語訳
田畑のあいだをぶらぶら歩くと、垂れた柳が風に揺れ、植えたばかりの苗が波のようにそよぎます。農夫は農具を肩に担ぎ、声を長く引いて歌を掛け合っています。牛飼いの子どもたちは牛の背に後ろ向きにまたがり、節もない短い笛をいつまでも吹いていて、たいそう野の趣があります。
解説
田園の春の一場面を、柳、苗、農夫、牧童と順に描いていく一則です。畎畝は田のあぜと畝、つまり田畑のことです。新秧は植えたばかりの稲の苗で、それが風に揺れるさまを浪にたとえています。農夫たちは労働の合間に歌を交わし、子どもたちは牛の背に逆さまに乗って、節にならない笛を吹き続けます。腔は曲の節回しのことで、無腔はでたらめな笛の音です。上手な演奏ではなく、子どもの気ままな笛の音にこそ野趣があると見るところに、飾らないものを愛する心が表れています。整ったものばかりでなく、子どもの遊びや働く人の声にも、心を和ませる美しさがあるのです。
この章句が説くこと
自然田園閑適素朴野趣
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