酔古堂剣掃 / 集素・簪を投ずるも猶ほ太だ晚し
風起思蓴,張季鷹之胸懷落落;春回到柳,陶淵明之興致翩翩。然此二人,薄宦投簪,吾猶嗟其太晚。
新字:風起思蓴,張季鷹之胸懐落落;春回到柳,陶淵明之興致翩翩。然此二人,薄宦投簪,吾猶嗟其太晩。
書き下し
風起りて蓴を思ふ、張季鷹の胸懷落落たり。 春回りて柳に到る、陶淵明の興致翩翩たり。 然れども此の二人、薄宦に簪を投ずるも、吾猶ほ其の太だ晚きを嗟く。
現代語訳
秋風が吹き起こると故郷の蓴菜を思った、張季鷹の胸の内はさっぱりとして大らかです。春がめぐって柳が芽吹くと、陶淵明の興趣は軽やかに舞い上がります。けれどもこの二人が、取るに足らない官職から冠の簪を投げ捨てて辞めたことについて、私はそれでもなお遅すぎたと嘆くのです。
解説
官を辞して故郷に帰った二人の名士を挙げ、なおその決断が遅かったと言う、辛口の一則です。張季鷹は晋の張翰で、秋風が吹くと故郷呉の蓴菜の吸い物と鱸の膾を思い出し、人生は心にかなうことが大事だと言って官を辞めたと伝えられます。陶淵明は、わずかな俸禄のために腰を折れないと言って彭沢の県令を辞し、帰去来の辞を作りました。五柳先生と号したことから、ここでも柳と結びつけられています。投簪は、冠を留める簪を捨てる、すなわち官職を辞すことです。潔い去り際で知られる二人でさえ遅いと言うところに、編者の強い隠逸志向が表れています。
この章句が説くこと
隠逸決断処世帰郷陶淵明
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