酔古堂剣掃 / 集素・寵辱驚かず閒かに庭前の花を看る
寵辱不驚,閒看庭前花開花落;去留無意,漫隨天外雲卷雲舒。斗室中萬慮都捐,說甚畫棟飛雲,珠簾卷雨;三杯後一真自得,誰知素弦橫月,短笛吟風。
新字:寵辱不驚,閒看庭前花開花落;去留無意,漫随天外雲巻雲舒。斗室中万慮都捐,説甚画棟飛雲,珠簾巻雨;三杯後一真自得,誰知素弦横月,短笛吟風。
書き下し
寵辱驚かず、閒かに庭前の花開き花落つるを看る。 去留意無く、漫に天外の雲卷き雲舒ぶるに隨ふ。 斗室の中萬慮都て捐つ、甚の畫棟雲を飛ばし、珠簾雨を卷くをか說かん。 三杯の後一真自得す、誰か知らん素弦月に橫たはり、短笛風に吟ずるを。
現代語訳
寵愛を受けても辱めを受けても驚かず、のんびりと庭先の花が咲いては散るのを眺めます。去るも留まるも心にかけず、気ままに空の彼方の雲が巻いては広がるのにまかせます。小さな部屋の中であらゆる思い煩いを捨ててしまえば、彩色した棟木に雲が飛び、玉の簾が雨を巻き上げるような豪壮な楼閣のことなど、どうして言う必要がありましょう。三杯飲んだ後に一つの真実をおのずと会得すれば、飾りのない琴の弦が月に照らされて横たわり、短い笛が風に吟ずる趣を、ほかの誰が知るでしょうか。
解説
栄辱や去就にとらわれない心境を歌った、この書の中でも特によく知られた一則です。寵辱不驚は、『老子』の寵辱には驚くがごとしという言葉を裏返したもので、寵愛も屈辱も心を乱さないことです。去留無意は、官職を去るか留まるかにこだわらないことです。花の開落と雲の巻舒は、自然の移ろいに身をまかせる心を象徴します。斗室は升ほどの狭い部屋、画棟飛雲、珠簾巻雨は、唐の王勃の滕王閣序の名句を借りて、壮麗な楼閣を言います。一真自得は真実をおのずと得ること、素弦は飾りのない琴です。地位や住まいの大きさではなく、心の自由こそが人を豊かにします。前半の二句は座右の銘としても愛されています。
この章句が説くこと
寵辱閑適自然老子心境
関連する章句
-
菜根譚・後集寵辱に驚かず、閑かに庭前の花開き花落つるを看る。去留に意無く、漫(そぞ)ろに天外の雲巻き雲舒(の)ぶるに随う。
-
『酔古堂剣掃』集素・花落つること頻りなりと雖も心自ら閒なり水流れて意に任すも景常に靜かに、花落つること頻りなりと雖も心自ら閒なり。
-
『酔古堂剣掃』集素・門外車馬の塵、了に相關せず簷前の綠蕉黃葵、老少葉、雞冠花、階砌に布き滿つ。 榻を移して之に對し、或いは石を枕として高眠し、或いは塵を捉りて清話す。 門外車馬の塵滾滾たるも、了に相關せず。
-
『酔古堂剣掃』集素・立つべく臥すべく坐すべく吟ずべし窗前の落月、戶外の垂蘿、石畔の草根、橋頭の樹影、 立つべく臥すべく、坐すべく吟ずべし。
-
『酔古堂剣掃』集韻・徑を掃ひて清風を迎ふ徑を掃ひて清風を迎へ、臺に登りて明月を邀ふ。琴觴の餘、間ふるに歌詠を以てし、止だ鳥語花香のみ、吾が几榻に來たるを許すのみ。
-
『酔古堂剣掃』集素・閒かに落花を掃へば人の懷ひを散ず林泉の滸、風萬點を飄へし、清露晨に流れ、新桐初めて引く。 蕭然として事無く、閒かに落花を掃へば、人の懷ひを散ずるに足る。