酔古堂剣掃 / 集素・只だ合に門を杜づべし
覆雨翻雲何險也,論人情,只合杜門;吟風弄月忽頹然,全天真,且須對酒。
新字:覆雨翻雲何険也,論人情,只合杜門;吟風弄月忽頽然,全天真,且須対酒。
書き下し
雨を覆し雲を翻す、何ぞ險しきや、人情を論ずれば、只だ合に門を杜づべし。 風に吟じ月を弄して忽ち頹然たり、天真を全うせんには、且く須らく酒に對すべし。
現代語訳
手のひらを返せば雲となり、返せば雨となるように、なんと険しい変わりようでしょうか。人の情けというものを論じるなら、ただ門を閉ざして引きこもるのがよいのです。風に詩を吟じ月をもてあそんで、いつのまにか酔いつぶれます。生まれつきの純真さを保つには、しばらく酒に向き合うのがよいでしょう。
解説
人情の移ろいやすさを嘆き、閉居と酒に逃れる心境を詠んだ一則です。覆雨翻雲は、唐の杜甫の詩「貧交行」の、手を翻せば雲となり手を覆せば雨となるという句に基づき、人の態度がころころ変わることを言います。杜門は門を閉ざして人と交わらないことです。頽然は酔ってぐったりするさま、天真は生まれつきの飾り気のない心です。人間関係に疲れたとき、無理に付き合いを広げず、しばらく距離を置いて自分を取り戻すことも必要です。ただ、酒に頼りすぎないことは現代の私たちには大切な注意でしょう。
この章句が説くこと
人情処世隠逸天真酒
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集素・對飲は惟だ明月のみ室に入るは清風を許し、對飲は惟だ明月のみ。
-
『酔古堂剣掃』集倩・月到り風來たる水流れ雲在り、子美千載の高標を想ふ。 月到り風來たる、堯夫一時の雅致を憶ふ。 何を以てか天下の清風朗月を消せん、酒盞詩筒。 何を以てか人間の覆雨翻雲を謝せん、門を閉ぢて高臥す。
-
『酔古堂剣掃』集韻・門を杜ぢて客を謝す幽徑蒼苔、門を杜ぢて客を謝し、綠陰清晝、帽を脫ぎて詩を觀る。
-
『酔古堂剣掃』集靈・談ずる所は浮生の閒話累月獨り處り、一室蕭條たり。雲霞を取りて伴侶と為し、青松を引きて心知と為す。或いは稚子老翁、閒中に來り過ぎれば、濁酒一壺、蹲鴟一盂、相共に笑口を開き、談ずる所は浮生の閒話、絕えて市朝に及ばず。客去れば門を關ざし、了に報謝無し、是の如くして餘生を畢へなば足れり。
-
『酔古堂剣掃』集素・淡月の輕雲に映ずるに似たり善く時を救ふは、和風の酷暑を消すが若く、能く俗を脫するは、淡月の輕雲に映ずるに似たり。
-
『酔古堂剣掃』集素・寵辱驚かず閒かに庭前の花を看る寵辱驚かず、閒かに庭前の花開き花落つるを看る。 去留意無く、漫に天外の雲卷き雲舒ぶるに隨ふ。 斗室の中萬慮都て捐つ、甚の畫棟雲を飛ばし、珠簾雨を卷くをか說かん。 三杯の後一真自得す、誰か知らん素弦月に橫たはり、短笛風に吟ずるを。