酔古堂剣掃 / 集靈・錦衣厚味も只だ萬狀の愁苦を覺ゆ
清閒無事,坐臥隨心,雖粗衣淡食,自有一段真趣;紛擾不寧,憂患纏身,雖錦衣厚味,只覺萬狀愁苦。
新字:清閒無事,坐臥随心,雖粗衣淡食,自有一段真趣;紛擾不寧,憂患纏身,雖錦衣厚味,只覚万状愁苦。
書き下し
清閒にして事無く、坐臥心に隨へば、粗衣淡食と雖も、自ら一段の真趣有り。紛擾して寧からず、憂患身に纏へば、錦衣厚味と雖も、只だ萬狀の愁苦を覺ゆ。
現代語訳
清らかでのどかで用事もなく、座るも寝るも心のままであれば、粗末な衣服と質素な食事であっても、おのずと本当の趣があります。ごたごたして落ち着かず、心配事が身にまとわりついていれば、錦の衣とごちそうがあっても、ただあらゆる愁いと苦しみを感じるばかりです。
解説
幸福を決めるのは衣食の豊かさではなく心の状態だ、と対比で示した一則です。坐臥隨心は、座るのも寝るのも思いのままという自由な暮らしです。粗衣淡食は粗末な衣服とあっさりした食事、錦衣厚味は豪華な衣服とこってりしたごちそうです。紛擾は乱れて騒がしいこと、憂患は心配や災難です。質素でも心が穏やかなら暮らしは楽しく、豪華でも心が乱れていれば暮らしは苦しいというのです。収入や持ち物を増やすことばかりに目を向けがちですが、心配事を減らし、自分の時間を持てる暮らしを整えるほうが、満足感につながることは多いものです。
この章句が説くこと
清貧閑適知足心境幸福
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集韻・饑ゑて餐ふに如くは無し快欲の事は、饑ゑて餐ふに如くは無く、適情の時は、甘く寢ぬるに過ぐるは莫し。多きを清欲に求むれば、即ち侈汰も亦た茫然たり。
-
『酔古堂剣掃』集醒・足るを知る者は身貧しくして心富む得るを貪る者は、身富みて心貧し。足るを知る者は、身貧しくして心富む。高きに居る者は、形逸にして神勞す。下に處る者は、形勞して神逸す。
-
『酔古堂剣掃』集素・但だ其の時に順ひ紈綺に在らず居處は吾が生を寄す、但だ其の地を得れば、高廣に在らず。 衣服は吾が體を被ふ、但だ其の時に順へば、紈綺に在らず。 飲食は吾が腹を充たす、但だ其の可に適へば、膏粱に在らず。 宴樂は吾が好を修む、但だ其の誠を致せば、浮靡に在らず。
-
『酔古堂剣掃』集醒・心を清素に實たす想ひを奢華に結べば、則ち見る所轉た冷淡多し。心を清素に實たせば、則ち涉る所都て塵氛を厭ふ。
-
『酔古堂剣掃』集醒・遇に隨ひて安んず人言ふ、天は人の富貴を禁ぜずして、人の清閒を禁ずと。人自ら閒ならざるのみ。若し能く遇に隨ひて安んじ、將來を圖らず、既往を追はず、目前に蔽はれずんば、何の清閒か之れ有らざらん。
-
『酔古堂剣掃』集靈・只だ清福のみ享け難し凡そ名は居り易く、只だ清名のみ居り難し。凡そ福は享け易く、只だ清福のみ享け難し。