酔古堂剣掃 / 集靈・賢なるかな細君
癡矣狂客,酷好賓朋;賢哉細君,無違夫子。醉人盈座,簪裾半盡;酒家食客滿堂,瓶甕不離米肆。燈燭熒熒,且耽夜酌;爨煙寂寂,安問晨炊。生來不解攢眉,老去彌堪鼓腹。
新字:痴矣狂客,酷好賓朋;賢哉細君,無違夫子。酔人盈座,簪裾半尽;酒家食客満堂,瓶甕不離米肆。灯燭熒熒,且耽夜酌;爨煙寂寂,安問晨炊。生来不解攢眉,老去弥堪鼓腹。
書き下し
癡なるかな狂客、酷だ賓朋を好む。賢なるかな細君、夫子に違ふ無し。醉人座に盈ちて、簪裾半ば盡く。酒家の食客堂に滿ち、瓶甕米肆を離れず。燈燭熒熒として、且く夜酌に耽り、爨煙寂寂として、安んぞ晨炊を問はん。生來眉を攢むるを解せず、老い去りて彌よ腹を鼓するに堪ふ。
現代語訳
愚かなものです、この狂った客人は、ひどく客や友を好みます。賢いものです、その妻は、夫に逆らうことがありません。酔った人が座敷にあふれ、妻のかんざしや衣装も半ばは消えてしまいました。酒飲みの居候が座敷に満ち、酒瓶や甕はいつも米屋の店先を離れません。灯火がちらちらと揺れる中、ひとまず夜の酒にふけり、かまどの煙はひっそりと絶えて、明日の朝の飯のことなど気にもかけません。生まれてこのかた眉をひそめることを知らず、年老いてますます腹鼓を打って満ち足りています。
解説
客好きで貧しい主人と、それを支える妻の暮らしを、自嘲まじりに描いた一則です。狂客は常識外れの客好きな男、細君は妻のことです。簪裾は女性のかんざしと衣装で、それが半ば尽きたというのは、酒代のために妻の持ち物まで手放したことを言うのでしょう。瓶甕が米屋を離れないというのも、酒や米の買い入れに追われる暮らしぶりを表します。爨煙は炊事の煙で、それが絶えても朝飯を気にしないという豪快さです。鼓腹は腹鼓を打つことで、満ち足りて太平を楽しむ様子を言います。貧しくても人をもてなし、夫婦で笑って暮らす姿には、お金では買えない豊かさがあります。ただし、その陰で支える家族への感謝も忘れてはならないでしょう。
この章句が説くこと
交友清貧夫婦飲酒閑適
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