酔古堂剣掃 / 集靈・凡そ醉には各おの宜しき所有り
凡醉各有所宜。醉花宜晝,襲其光也;醉雪宜夜,清其思也;醉得意宜唱,宣其和也;醉將離宜擊缽,壯其神也;醉文人宜謹節奏,畏其侮也;醉俊人宜益觥盂加旗幟,助其怒也;醉樓宜暑,資其清也;醉水宜秋,泛其爽也。此皆審其宜,考其景,反此則失飲矣。
新字:凡酔各有所宜。酔花宜昼,襲其光也;酔雪宜夜,清其思也;酔得意宜唱,宣其和也;酔将離宜撃鉢,壮其神也;酔文人宜謹節奏,畏其侮也;酔俊人宜益觥盂加旗幟,助其怒也;酔楼宜暑,資其清也;酔水宜秋,泛其爽也。此皆審其宜,考其景,反此則失飲矣。
書き下し
凡そ醉には各おの宜しき所有り。花に醉ふは晝に宜し、其の光を襲ふなり。雪に醉ふは夜に宜し、其の思ひを清くするなり。得意に醉ふは唱ふに宜し、其の和を宣ぶるなり。將に離れんとするに醉ふは缽を擊つに宜し、其の神を壯んにするなり。文人に醉ふは節奏を謹むに宜し、其の侮りを畏るるなり。俊人に醉ふは觥盂を益し旗幟を加ふるに宜し、其の怒りを助くるなり。樓に醉ふは暑に宜し、其の清に資るなり。水に醉ふは秋に宜し、其の爽を泛ぶるなり。此れ皆其の宜しきを審らかにし、其の景を考ふるなり、此れに反すれば則ち飲を失ふ。
現代語訳
酔うにはそれぞれふさわしい場合があります。花に酔うのは昼がよく、その光を身に受けるためです。雪に酔うのは夜がよく、思いを清らかにするためです。得意なことがあって酔うときは歌うのがよく、その和やかさを表すためです。別れを前に酔うときは鉢を打ち鳴らすのがよく、心を奮い立たせるためです。文人と酔うときは調子を慎むのがよく、侮られるのを恐れるためです。豪傑と酔うときは杯を増やし旗を立てるのがよく、その意気を盛んにするためです。高楼で酔うのは暑い時期がよく、その涼しさを頼みとするためです。水辺で酔うのは秋がよく、そのさわやかさに浮かぶためです。これらはみな、ふさわしさを見きわめ、景色を考えたものです。これに反すれば、酒の飲み方を誤ることになります。
解説
酒の楽しみ方を、相手や場面ごとに細かく定めた一則です。明の袁宏道が酒席の作法を記した觴政に、ほぼ同じ文があります。花と雪、昼と夜、喜びと別れ、文人と豪傑、高楼と水辺というように、二つずつ対になって並んでいます。襲其光は花の光を身に重ねるように受けること、擊缽は鉢を打って拍子を取ることです。どの場面にも、なぜそうするのかという理由が添えられているのが面白いところです。同じ酒でも、時と所と相手によってふさわしい飲み方があるという考えは、宴席や会食の段取りを考えるときにも役立ちます。場に合わせる心配りこそが、楽しみを深めるのです。
この章句が説くこと
風雅飲酒作法交友閑適
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