酔古堂剣掃 / 集醒・酒に對して文を論ずるは寂寞を忌む
書畫為柔翰,故開卷張冊,貴於從容;文酒為懽場,故對酒論文,忌於寂寞。
新字:書画為柔翰,故開巻張冊,貴於従容;文酒為懽場,故対酒論文,忌於寂寞。
書き下し
書畫は柔翰為り、故に卷を開き冊を張るは、從容たるを貴ぶ。文酒は懽場為り、故に酒に對して文を論ずるは、寂寞を忌む。
現代語訳
書画はしなやかな筆で書かれたものですから、巻物を開き画帖を広げるときは、ゆったりと落ち着いていることが大切です。詩文と酒は歓びの場ですから、酒を前にして文章を論じるときは、しんみりと寂しいのはよくありません。
解説
書画を鑑賞するときと、酒を飲みながら文を語るときの、ふさわしい心の構えを対比した対句です。柔翰は柔らかな筆のことで、書画そのものを指します。書画を見るときは、筆の運びの柔らかさに合わせて、心もゆったり落ち着けて向き合うのがよいと言います。一方、文酒の場は歓楽の場なので、酒を酌み交わしながら詩文を論じるときは、しんとして盛り上がらないのはよくないと言います。静けさを尊ぶ場と、にぎやかさを尊ぶ場があり、それぞれに合った楽しみ方があるということです。場の性格をわきまえて心の構えを変えることは、会議や宴席など、今日のさまざまな場面にも当てはまる心得でしょう。
この章句が説くこと
風雅書画飲酒場面閑適
関連する章句
-
『酔古堂剣掃』集豪・酒人の醉態を看る床に據りて嗒爾として、豪士の談鋒を聽き、 盞を把りて惺然として、酒人の醉態を看る。
-
『酔古堂剣掃』集素・但だ半酣を取りて風月と侶と為す酒を飲むには真に認むべからず、真に認むれば則ち大いに醉ひ、大いに醉へば則ち神魂昏亂す。 書に在りては沉湎と為し、詩に在りては童羖と為し、禮に在りては豢豕と為し、史に在りては狂藥と為す。 何ぞ如かん、但だ半酣を取りて、風月と侶と為すに。
-
『酔古堂剣掃』集豪・襟懷は疏朗を貴ぶ襟懷は疏朗を貴ぶも、太だ豪華を逞しくするに宜しからず。文字は雄奇を要するも、故らに寂寞を求むるに宜しからず。
-
『酔古堂剣掃』集醒・書札は工巧ならんより直陳す揮灑して以て情を怡ばしむ、其の應酧せんよりは、何ぞ兀坐するに如かん。書札は以て情を達す、其の工巧ならんよりは、何ぞ直陳するに若かん。棋局は以て情に適ふ、其の勝を競はんよりは、何ぞ膝を促すに若かん。笑談は以て情を洽す、其の謔浪せんよりは、何ぞ狂歌するに若かん。
-
『酔古堂剣掃』集靈・凡そ醉には各おの宜しき所有り凡そ醉には各おの宜しき所有り。花に醉ふは晝に宜し、其の光を襲ふなり。雪に醉ふは夜に宜し、其の思ひを清くするなり。得意に醉ふは唱ふに宜し、其の和を宣ぶるなり。將に離れんとするに醉ふは缽を擊つに宜し、其の神を壯んにするなり。文人に醉ふは節奏を謹むに宜し、其の侮りを畏るるなり。俊人に醉ふは觥盂を益し旗幟を加ふるに宜し、其の怒りを助くるなり。樓に醉ふは暑に宜し、其の清に資るなり。水に醉ふは秋に宜し、其の爽を泛ぶるなり。此れ皆其の宜しきを審らかにし、其の景を考ふるなり、此れに反すれば則ち飲を失ふ。
-
『酔古堂剣掃』集倩・畫法を以て書を作す書者の畫を談ずるを喜ぶは、定めて能く畫法を以て書を作す。 酒人の茶を論ずるを好むは、定めて能く茶法を以て酒を飲む。