酔古堂剣掃 / 集情・襄王の夢裡に向ひて歸る
紅印山痕春色微,珊瑚枕上見花飛,煙鬟潦亂香雲溼,疑向襄王夢裡歸。
新字:紅印山痕春色微,珊瑚枕上見花飛,煙鬟潦乱香雲湿,疑向襄王夢裡帰。
書き下し
紅は山痕を印して春色微かに、珊瑚の枕上に花の飛ぶを見る、煙鬟は潦亂して香雲溼ひ、疑ふらくは襄王の夢裡に向ひて歸るかと。
現代語訳
紅の跡が遠山のような眉の形を枕に残し、春の色がかすかに漂います。珊瑚の枕の上で花の舞い散るのを見ています。煙のような髷は乱れて、香る雲のような髪はしっとりと濡れ、まるで襄王の夢の中から帰ってきたかのようです。
解説
目覚めたばかりの女性の姿を、夢の故事になぞらえて描いた七言の四句です。山痕は遠山のようにかすんだ眉の形、煙鬟は煙のように柔らかな髷、香雲は香をたきしめた豊かな髪のたとえです。襄王の夢は、宋玉の賦に描かれた、楚の襄王が夢で巫山の神女に会ったという話を踏まえ、夢から覚めたばかりの夢うつつの風情を言います。枕に残る紅、乱れた髪、しっとりとした香りと、細部を重ねて一つの情景を描き出す手法は、艶やかな詩の典型です。露骨な言葉を使わず、物の跡や気配だけで情を伝えるところに品があります。描かずに想像させる表現の力を味わう一則です。
この章句が説くこと
恋情艶麗巫山夢詩情
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