酔古堂剣掃 / 集醒・人情は夢の如し
世路如冥,青天障蚩尤之霧;人情如夢,白日蔽巫女之云。
書き下し
世路は冥きが如し、青天に蚩尤の霧障る。人情は夢の如し、白日に巫女の云蔽ふ。
現代語訳
世の中の道は暗闇のようで、青空にも蚩尤(古代の伝説の魔神)の起こした霧が立ちふさがっています。人の情は夢のようで、真昼にも巫山の神女の雲が覆いかぶさっています。
解説
世の中と人の心の見通しの悪さを、二つの伝説で描いた対句です。蚩尤は古代の伝説で黄帝と戦った魔神で、戦いの中で大霧を起こして敵を迷わせたと伝えられます。青空が広がっているように見えても、世の道には人を迷わせる霧が立ちこめているというのです。巫女の雲は、宋玉の「高唐賦」に見える巫山の神女が、朝は雲となり夕べは雨となると語った話によります。白日、真昼のさなかにも、人の情は神女の雲のように夢まぼろしに覆われているというのです。世の中も人の心も、はっきり見えているようで実は見通せないものです。集醒の最後に置かれたこの句は、見えていると思い込む危うさを自覚し、醒めた目で世を歩めと促しているように読めます。
この章句が説くこと
覚醒人情処世迷い洞察
関連する章句
-
人物志・八觀天下の至精に非ずんば、其れ孰か能く其の実を得んや。
-
『呻吟語』外篇・治道・其の自然の機に觸れて自然の情を鼓す物理人情は、自然なるのみ。聖人は其の自然なる者を得て以て天下を觀る。而して天下の人は聖人の洞察を逃るる能はず。其の自然なる者を握りて以て天下を運らす。而して天下の人は聖人の斡旋する所と為るを覺えず。即ち其の軌物の矯拂に繩る所なるも、然れども其の人欲自然の私に拂ひて、其の天理自然の公に順ふ。故に倔強錮蔽の人有りと雖も、憬悟して馴服せざる莫し。則ち聖人は其の自然の機に觸れて其の自然の情を鼓すればなり。
-
説苑・說叢夫れ水は山に出でて海に入り、稼は田に生じて廩に藏す。聖人は生ずる所を見れば則ち歸する所を知る。
-
人物志・八觀八に曰く、其の聡明を観て、以て達する所を知る。
-
『呻吟語』内篇・應務・寧ろ恕に過ぎて以て人の情を逃す人に言ひて意を達する能はざる者有り、其の狀其の本心に非ざる者有り、其の言貌其の本心を誣ふる者有り。君子の人を現るは、其の察に過ぎて人の心を誣ふるよりは、寧ろ恕に過ぎて以て人の情を逃さん。
-
『酔古堂剣掃』集素・五湖の煙月も盡く寸衷に入る個中の趣を會得すれば、五湖の煙月も盡く寸衷に入る。 眼前の機を破得すれば、千古の英雄も都て掌握に歸す。