酔古堂剣掃 / 集情・京兆の眉を描き難し
弄綠綺之琴,焉得文君之聽;濡彩毫之筆,難描京兆之眉;瞻雲望月,無非悽愴之聲;弄柳拈花,盡是銷魂之處。
新字:弄緑綺之琴,焉得文君之聴;濡彩毫之筆,難描京兆之眉;瞻雲望月,無非悽愴之声;弄柳拈花,尽是銷魂之処。
書き下し
綠綺の琴を弄するも、焉んぞ文君の聽くを得ん。 彩毫の筆を濡らすも、京兆の眉を描き難し。 雲を瞻月を望めば、悽愴の聲に非ざるは無し。 柳を弄び花を拈れば、盡く是れ銷魂の處なり。
現代語訳
緑綺の琴(司馬相如の名琴)を奏でても、どうして卓文君のような人に聴いてもらえましょう。彩りの筆を墨に濡らしても、京兆尹の張敞のように妻の眉を描くことはかないません。雲を仰ぎ月を眺めれば、聞こえるものはみな悲しい声ばかりです。柳の枝をもてあそび花を摘めば、どこもかしこも魂の消え入るような思いのする所です。
解説
恋しい人のいない寂しさを、二つの有名な夫婦の故事を借りて嘆いた一則です。緑綺は漢の司馬相如が愛用した琴の名で、彼は琴の調べで卓文君の心をつかみ、二人は駆け落ちして夫婦になりました。京兆の眉は、漢の京兆尹張敞が妻のために眉を描いてやったという逸話によります。どちらも仲睦まじい男女の象徴ですが、琴を弾いても聴く人はなく、筆を取っても眉を描く相手がいないというのです。後半では、雲も月も柳も花も、すべてが悲しみを呼び起こすものに変わってしまったと述べます。銷魂は魂が消え入るほど思い悩むことです。心の状態によって、同じ景色がまったく違って見えることをよく伝えています。
この章句が説くこと
情恋慕故事夫婦愁い
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