酔古堂剣掃 / 集醒・樓臺是れ丘墓爲り
郊野非葬人之處,樓臺是為丘墓;邊塞非殺人之場,歌舞是為刀兵。試觀羅綺紛紛,何異旌旗密密;聽管絃冗冗,何異松栢蕭蕭。葬王矦之骨,能消幾處樓臺;落壯士之頭,經得幾番歌舞。達者統為一觀,愚人妄指為兩地。
新字:郊野非葬人之処,楼台是為丘墓;辺塞非殺人之場,歌舞是為刀兵。試観羅綺紛紛,何異旌旗密密;聴管絃冗冗,何異松栢蕭蕭。葬王矦之骨,能消幾処楼台;落壮士之頭,経得幾番歌舞。達者統為一観,愚人妄指為両地。
書き下し
郊野は人を葬るの處に非ず、樓臺是れ丘墓爲り。邊塞は人を殺すの場に非ず、歌舞是れ刀兵爲り。 試みに觀よ羅綺の紛紛たる、何ぞ旌旗の密密たるに異ならん。聽け管絃の冗冗たる、何ぞ松栢の蕭蕭たるに異ならん。 王矦の骨を葬るに、能く幾處の樓臺を消さん。壯士の頭を落とすに、幾番の歌舞をか經得ん。 達者は統べて一觀と爲し、愚人は妄りに指して兩地と爲す。
現代語訳
郊外の野が人を葬る所なのではありません。高殿こそが墓なのです。辺境の砦が人を殺す場なのではありません。歌や舞こそが刀や兵なのです。試しに、美しい薄絹の衣装が入り乱れるさまを見てください。どうして軍旗がびっしり並ぶさまと違いましょう。管弦の音がにぎやかに鳴り響くのを聞いてください。どうして墓地の松や柏が寂しく鳴る音と違いましょう。王侯の骨を葬るまでに、いくつの高殿を費やしてしまうことか。壮士の首が落ちるまでに、何度の歌舞を経ることか。道理に通じた人はこれらをすべて一つのものと見ますが、愚かな人はみだりに別々の場所だと考えるのです。
解説
歓楽の場こそが人を滅ぼす墓場であり戦場であると、強い言葉で警告した一則です。楼台は宴を開く高殿、羅綺は薄絹の美しい衣装、管弦は笛や琴の音楽を言います。旌旗は軍旗、松柏は墓地に植えられた木です。華やかな宴の衣装は軍旗と同じく人を死地に駆り立て、にぎやかな音楽は墓地の風の音と変わらない、と歓楽と死を重ね合わせています。王侯も壮士も、宴にふけるうちに命と国を失っていきます。愚人は宴の場と墓場を別の所だと思いますが、達者はそれが一つながりであることを見抜くのです。今日でいえば、成功のさなかの浮かれた日々こそ、没落の種がまかれている時だという戒めとして読めるでしょう。
この章句が説くこと
歓楽無常戒め生死節制
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